「兄 かぞくのくに」ヤン・ヨンヒ著


兄 かぞくのくに (小学館文庫)

 帰国事業で3人の兄が北朝鮮へ送られ、家族が引き裂かれた方の話です。
クラシックが好きだった長男のコノ兄が精神を病んでしまいます。三度目の面会のとき、病院を出て、抗うつ剤の影響でよくしゃべる兄を見て一瞬安心しますが、食事に出かけた時、ダメだという声を無視して長兄がビール飲んでしまいます。まぁ仕方ないかと三人の兄と日本から一緒にきたKと5人で楽しく会話していましたが、突然ダンッとテーブルに両手をついて立ち上がり、コノ兄が手を振りながら歌い始めます。
一部引用します。

「・・・ドヴォルザークの『新世界より。交響曲第九番の第四楽章。「ここでホルン、もっと強く!トランペットは音をきちんと刻んで。そう、その調子。ヴァイオリン!もっとアンサンブルを意識して・・・」 歌いながら、その途中途中で指示を入れ始めた。

指揮者だ。コノ兄は指揮者になっている!

周囲のテーブルの客が、驚いてこっちを見ている。コノ兄だけがひとり、別の世界にいる。Kを見ると、口をあんぐり開けている。そういう私も、口を開けたまま固まっていた。
二人の兄は驚いていない。下を向いて溜息をついている。やばい時に始まっちゃったな。そういう感じか。」

 それを見て、き・・・、で始まる4文字が浮かんだそうです。実の兄が、自分の目の前でそんな姿を見せる。想像するだけで胸が苦しくなります。朝鮮半島の北半分は、主体思想を信仰する連中に乗っ取られ、人間を狂わせる国に作り替えられてしまいました。怒りに震えます。

 北朝鮮と朝鮮総連に引き裂かれた、在日の方々の苦難がよく分かる本です。これを読んで「嫌なら帰ってください」とは口が裂けても言えません。もちろん当時は実態が分からなかったですし、左翼運動が絶頂期で社会主義に幻想を抱いていた時期です。万歳三唱で北朝鮮への帰還事業が大々的に行われ、その時は望んで行ったのかもしれません。ですが実態を知っていれば行かなかったはずです。その後、親族は人質に取られ、声を上げることもできず、黙って物資を送り続けました。中には金を吸い取られて人生が破滅したような方々もいます。

 北朝鮮の暴君を非難する声が平和を愛するリベラルから出てこないことに驚きを禁じ得ません。憲法9条でデモを起こすくらいなら、この件でデモを起こすべきでしょう。強制収容所で、不具者になるまで拷問を受けたり、産まれたばかりの子供に濡れタオルをかぶせて殺す。そんな悪魔の所業を現在進行形で行っている人達がすぐ隣にいるのに、なせそのことに怒りの声をあげないのでしょうか?むしろ9条などとっとと改正して、力づくでも北朝鮮を乗っ取った暴君共を追い出せ!という声を出してもいいくらいです。ですが、そんな声は一切聞こえてきません。リベラルというのは善意で人を地獄に落とす、帰還事業を強力に推進した連中と同じですね。人間というのはなかなか成長しないようです。

 常に隣の暴君が望むことをするのが、平和を愛するリベラルのまったくもって理解不能なところです。

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