『跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実体』朝鮮学校 洗脳教育の手法

帰還事業で北送され、その後脱北して韓国で活動している金柱聖氏の著書『跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実体』から、朝鮮学校でどのように祖国愛を注入してたかが分かる内容があったので紹介しておきます。

幼少期にこのような情緒を形成させられてしまうと、北朝鮮の信じたくない現実は無視し、少しでも北朝鮮を弁護できる言論ばかり見るようになります。

「三つ子の魂百まで」ということわざの通り、一度強烈な情緒を脳内に形成されてしまうと例え北の朝鮮同胞や北送された在日一世・二世たちが万単位で虐殺されても、その罪を「分断の悲劇」や「米国が追い詰めるから」という言い訳で、金一族の罪を矮小化し、他国に責任転嫁する残念な大人になります。

特定の情緒を脳内に形成する洗脳の手法はこちら。

 

万寿台ボールペンの価値

私の祖国に対する感性を豊かにした〝トリック〟の話を、もう少ししたい。まだ子供だった朝鮮学校の学生たちはなぜ、北朝鮮を祖国と敬い、金日成氏を神様のように拝んだのだろうか。

金日成氏は帰国事業を始めると同時に、巧妙な〝策〟を使った。いわゆる「教育援助費と奨学金」という名目のお金を朝鮮総連に送り出したのだ。この施策は国家予算に繰み込むかたちで1957年から始まっており、2017年は世襲統治三代目の正恩が2億1800万円を送ったという。2017年の4月までで計163回、総額は480億599万390円に上る(2017年4月13日「朝鮮中央通信」より)。

とはいえ、すべて現金ではなく、一部だけか現金で、残りは北朝鮮から船で送られてきた教材(動物の剥製品、楽器、本をはじめとするいろいろな教材)や備品、果物、お菓子や飲料水なども含まれていたことを、北朝鮮に行ってから初めて聞いた。

つまり、北朝鮮が自国産の林檎を1個1ドルで計算して、10万個を10万ドル分だと勝手に決めてもおかしくないというカラクリなのだ。そして教育援助費には朝鮮学校の先生たちの給料も含まれていたらしいが、実際のところは、総連傘下の商工会かその給与をまかなっていたという話も聞いたことかある。ちゃんちゃらおかしな話だが、あの国ならやりかねないことだと思った。

とにかく、こうした〝援助ストーリー〟のインパクトは、在日の感性をくすぐるのには十分だったと思う。

初級学校2年生の時たった。放課後に先生か、クラスの生徒何人かを連れ、大きな段ボール箱を持って教室に入ってきた。

「みんな、よくお聞き。これから母なる祖国から送られてきた素晴らしいプレゼントを〝授け〟ます。この贈り物は、私たちの父なる金日成元帥様からのお授け物でもあります」

担任の先生の言葉に、クラスの生徒か総立ちになって拍手をした。そこで教室のうしろのほうから入ってきた体育の先生か、ものすごい大声で号令をかけた。

「敬愛する父上金日成元帥様、万歳!」
「栄光ある祖国朝鮮民主主義人民共和国、万歳!」

掛け声に従い、クラス全員か「万歳!」を3回繰り返す。こういう儀式めいた行動は、誰かか教えなくとも、行事に何度も参加しているうちに自然と身に付く習慣だった。

その日、私たちが授かった貴重な贈り物は、祖国で生産したビスケット3枚と飴玉数個、そして日本では考えられないほど小さなミニ林檎1個、それにコップ杯のサイダーだった。机の上に配られていくと、急に誰かがしくしくと泣き出した。1人、2人、3人と、伝染するかのようにもらい泣きする子たちが増えていった。結局、私も泣いた。日本の製品に比べるととても粗末な物だが、それか祖国から来た物だと思うと感動し、涙が出た。しかも、金日成氏が送ってくれたという、〝偉大な愛の贈り物〟に感激したのだ。

「みんな、愛の込もった贈り物はこれだけじゃないのよ。驚かないでね。祖国のボールペンよ!」

先生か言い終わると同時に、みんなか「わー!」と感激の歓声を上げた。そしてビニールのケースに入ったちんけなボールペンとスペアの芯1本が配られたのだ。今だから言えることだが、本当にありふれた物で、北朝鮮のボールペンはインキか大量に漏れ出てくるため、ポケットなどに入れて歩いたりした時には、大変なことになっていた。それでもあの時は、祖国の匂いをまとったボールペンか本当に嬉しかった。子供たちかみなウキウキして喜んでいる時、音もなく校長先生か現れ、教壇の前に立った。そして、私たちの感性をたかぶらせる。とどめの〝一撃〟を加えた。

「諸君、嬉しいだろ? しかし君たちは、このボールペンにまつわる真実まではわかっていないだろう。実は……」

実は、「万寿台」というブランドのボールペンを、一部の総連幹部が北朝鮮訪問のお土産として買ってきた際、その息子がそれを学校に持っていき、自慢をしたことかあったという。すると他の生徒たちかうらやましがり、「ボールペンか欲しい」と言って喧嘩騒ぎか起きた。それを聞きっけた一部の父兄たちか、総連の本部に苦情を入れた。

「総連幹部の子供たちだけの特権なのか? ボールペンぐらい大量に仕入れて子供たちにあげろ」

そんな事情を時の総連議長たった韓徳銖が金日成氏に報告したところ、「日本にいる私の子供たちかどんなに祖国に憧れているのかよくわかった。在日の子供たち全員にボールペンをプレゼントしろ」と、指示したという話だった。

思わぬ〝劇的展開〟によって、人間愛の溢れる金日成氏が登場し、心を打つというわけだ。これか、北朝鮮の宣伝扇動の真髄とも言えるだろう。

跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実体』P77-80

実に巧妙ですね。

民族の英雄が自分たちのことを気にかけてくれている。それも朝鮮戦争後で苦しいときなのにお金を送ってくれて、いろんな物(リンゴ、ボールペンなどなど)も贈ってれる!なんて素晴らしいんだ!!

情感たっぷりに先生が教えてくれたらそりゃ信じます。子供は純粋ですから。

今の朝鮮学校擁護者たちは、「こんなの昔の話だ。今はしていない!洗脳なんて嘘っぱちだ!!」と言うでしょう。

半分本当で半分は嘘です。

「祖国から教育援助金を送ってくれた」神話は今もしつっっっっこいくらいに子供に教え込んでいます。

ソルマジ公演でも壊れたラジオのごとく、リピートリピートリピートです。

2017年のソルマジ公演(朝鮮学校の子供が選抜されて平壌で毎年正月に行われる公演)でも次のように歌われています。

02:36
祖国から祖国から 
お金を送ってくれる 
夢にも夢にも、思いもよりませんでした
教育援助費、奨学金を
多額の貴重なお金を
海を越え、遠い祖国から送ってきました
あ~、首領様の高く大きいこの愛は
山や海に例えられません

とっても情感たっぷりな感謝の言葉を、金日成・金正日・金正恩に捧げています。

昔ではなく今もやってます。

祖国からの教育援助金もその金額は、金柱聖さんの著書にあるように物の金額換算が非常に怪しかったり、総連傘下の商工会かその給与をまかなっていたんじゃないの?という疑惑付きの額面。

仮に金額が正しいとしても、教育援助金もらったからと言って、収容所送りにされて生き血を絞るように殺された在日朝鮮人たちの無念を忘れて、加害者である北の独裁者を称えることが正当化されるはずもありません。

たいがい、「洗脳教育などしていない」という人たちは「北朝鮮マンセー、金日成マンセー」なんてやっていない、と言います。

実際それは正しいでしょう。今時そんなこと言っても子供もバカじゃないですから中学・高校にでもなれば見抜きます。

そして、そんなことは北朝鮮も重々承知していますから、しっかり対策しています。

対策された結果、神格化コンテンツが金日成から、”ウリハッキョ”へと変えられています。

今の朝鮮学校の歴史洗脳教育は、”ウリハッキョ神格化”教育。

これが非常にやっかい。一面真実ですから騙される人が続出しています。

洗脳のポイントは不利な情報の封殺。

在日一世たちが必死に民族教育を守り育ててきたことは真実です。

しかし、その人たちを万単位で収容所送りにして殺し、学校を乗っ取り民族教育の内容を”金日成民族教育”へと変質させさせたことを決して教えない。

これぞ洗脳の神髄です。

不都合な情報は教えず、在日一世たちがどれだけ熱心に学校を守ってきたか、差別にも負けず、日本政府の弾圧にも負けず、お金と労働力と知恵を持ち寄って必死に支えてきたことを子供にこれでもかこれでもかと教え込みます。

めでたく、ウリハッキョを死守することに人生を捧げるウリハッキョ烈士が育ちます。全員が全員そうなるわけではありませんが、一定数は生まれます。この”ウリハッキョ教”ともいえる宗教の信徒に、「教育援助金」神話が加わるとめでたく北朝鮮シンパへと変わります。

ここまでいけば洗脳の完成。あとは適当な時期に右翼を裏で扇動して、学校を襲撃でもさせれば余裕で反政権運動を盛り上げられます。

ウリハッキョが最高尊厳で、その死守のために動員される人々。構図は金一族を最高尊厳とし、その死守のために動員される北朝鮮住民と同じです。

本来であれば、帰還事業で北送された在日同胞のために北の独裁者と戦う闘士を養成してこそ在日同胞のウリハッキョであるはずが、やっていることは親北人士養成教育。

帰還事業で北送された在日の人たちなんて朝鮮学校の卒業生であったり、教員であったり、そして最も熱心に朝鮮学校のために力を尽くしてきた人です。そうでなければ北朝鮮に行こうとしません。

その朝鮮学校の恩人を無実の罪で収容所送りにした国を祖国と呼び、虐殺指令を下した一族を民族の英雄と称え、教育援助金を贈ってくれた在日朝鮮人の恩人と教え込む。

本当に最悪です。

最悪なんですが、これをやれることが北朝鮮の体制維持の神髄です。

そしてこの著書『跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実体』では、「洗脳文学の実体」とあるように、その手法と、そのやり口にいかに在日朝鮮人がハメられたのかがよく分かる本になっています。

朝鮮学校に通う在日コリアンの子供にぜひ読んでもらいたい著書。ぜひご一読ください。