フォーリン・アフェアーズ 2018年12月号「なぜ独裁者は誤算を犯すのか?」と「個人独裁国家に対する抑止」

今月初旬に発刊された『フォーリン・アフェアーズ・リポート 2018年12月号』。冒頭の表紙画像からも分かるように「個人独裁国家の脅威」と銘打ってもろ北朝鮮を狙い撃ちにした寄稿が掲載されていました。

その中から「なぜ独裁者は誤算を犯すのか?」「個人独裁国家に対する抑止」という章を紹介します。

 

なぜ独裁者は誤算を犯すのか

どの個人独裁体制国家、あるいはそうした体制の構築を試みる指導者率いるどの国が核開発の野望をもっているかを予測するのは難しい。エジプト、シリア、トルコはすべてその十分な候補国に思える。サルマン皇太子がその手荒な権力掌握路線を進め、王位を継承すれば、次に核開発を試みるのはサウジアラビアになるかもしれない。

個人独裁者たちが核武装すれば、抑止するのは容易ではなくなる。彼らは「自分と家族そして取り巻きたちの命」を自国の民衆の命を守る以上に大切に考えがちだ。クーデターが起きないようにライバルを粉砕し、政権運営のために、その多くがファミリーメンバーのイエスマンで周りを固め、プロフェッショナルな能力や専門知識よりも、指導者への忠誠を重視する。イエスマンに囲まれた指導者に前提が間違っていることをたしなめる者はいないし、当然、その意思決定に挑戦する者はいない。

最近の歴史は、こうした好ましくない権力構造ゆえに個人独裁者が誤算を犯しがちであることを教えている。1986年、カダフィは「アメリカ人をターゲットとするテロを決行するように」と命令した。リビア人工作員は、米軍兵士たちに人気のあるベルリンのナイトクラブに爆発物を仕掛け、この爆破テロで2人の米兵と外国の民間人が犠牲になり、229人の米兵と民間人が負傷した。これに対してアメリカは、リビアの軍事ターゲットとカダフィが家族と暮らしていたトリポリ郊外の住宅を空爆した。

1980年にサダム・フセインは、側近の意見を聞くことなく、イラン攻撃を命じ、結果的に8年にわたる戦争を戦う羽目になった。1990年にも、彼は義理の息子に相談しただけで、クウェート侵略に踏み切り、結局は屈辱的な結果に終わる湾岸戦争の引き金を引いてしまった。サダムは「情報は自分の得意分野だ」と主張し、イラクの情報機関がアメリカに関する情報を報告することさえ禁じていた。

この類の間違った意思決定構造ゆえに、個人独裁国家は偶発事故に適切な対応がとれないことが多い。「アメリカによる北朝鮮攻撃が差し迫っており、もはや攻撃は不可避だ」と伝える情報を金正恩が受け取れば、先制攻撃ドクトリンをもつ北朝鮮は攻撃を実施すると平壌は表明している。しかし、彼がその決定をどのような基準で下すのかはわかっていない。

おそらく、信頼できる国内機関による公的な警告で判断するのかもしれない。しかし、技術的に洗練された社会であっても、警告が完全なものであることはあり得ない。例えば、2018年1月にはハワイ州の緊急事態管理庁でさえ「弾道ミサイルの脅威、ハワイに接近中。直ちに避難を。これは訓練ではない」という誤報を出している。ハワイ全島の住民はパニックに陥った。ビーチへ駆け出す者もいれば、自宅内のシェルターに適切に駆け込む者もいた。幸い、ワシントンでパニックに陥る者はいなかった。米軍の洗練されたセンサーは向かってくるミサイルが存在しないことを確認し、高度な訓練を受けた士官たちは、指揮系統に対して「ハワイ州当局が状況を誤認した」と伝え、軍高官たちのなかで、金正恩が挑発もされずにハワイに対する核攻撃を命じたと信じる者は誰もいなかった。

しかし、ホノルルではなく、平壌で間違った警報が出されていたら、どうなっていただろうか。北朝鮮のミサイル警報システムは時代物のソビエト製レーダーシステムに依存しており、アメリカとは違って、重層的で信頼できる情報をもたらす、多数の独立した衛星型警告システムをもっていない。しかも、間違った警報が出された場合、それを是正する代替システムは存在しない。

深刻な間違いを犯しても、北朝鮮軍がそれを指導者に報告するとは考えにくい。北朝鮮では、官僚や軍の土官たちが間違いを犯せば、逮捕されるだけでなく、処刑される恐れかおる。最後に、トランプが何度も極端な恫喝策をとってきたために、金正恩は「アメリカは北朝鮮を先制攻撃してくる」と信じている恐れもある。

フォーリン・アフェアーズ・リポート 2018年12月号』P10-11

アメリカに潰されてき歴代の中東の独裁者のことが取り上げられ、いかに彼らが誤算を犯してきたかが紹介されています。

構造的な問題で、周りがイエスマンで固められているため、独裁者の勘違いを誰も是正できず、アメリカの意図を見誤って潰されてしまった、ということでしょう。

ただ、これが北朝鮮に当てはまるかは微妙です。

中東の独裁者たちの誤算や失敗の経験を見る限り、むしろ北朝鮮はかなり狡猾に対応しているように思えます。

国内の経済政策はダメでも生存をかけた駆け引きは強いということかもしれません。

地政学的な要因もあります。

バックの中国という存在が米国の安易な攻撃を抑止し、さらには同盟国である韓国が「北朝鮮から反撃されたり、体制が崩壊して難民が押し寄せたらこちらに甚大な被害が及ぶ」と米国の軍事攻撃を必死に止めることも北朝鮮の体制存続に大いに貢献しています。

そう考えれば、気軽に潰されがちな中東の独裁国家と違い、何倍も残虐なことをしている北朝鮮が生き残れる理由も分かります。

さらには対米交渉の経験値も豊富です。

戦後、北朝鮮なんてずっと無視されてきたんじゃいの?と思われがちですが、戦後なんだかんだで定期的に事件が起きており、そのたびに米国の反応や交渉の傾向は経験値として積みあがってきています。

それに比べれば中東の独裁国家の対米交渉の経験値など足元にも及ばないでしょう。

「アメリカによる北朝鮮攻撃が差し迫っており、もはや攻撃は不可避だ」と北朝鮮が判断すれば北朝鮮は先制攻撃を行うと表明していることは確かでしょうが、その場合は180度態度が変わり、腰を低くして外交交渉を乞う姿勢を見せてくるはずです。

対話姿勢を示した北朝鮮を見て、中国、ロシア、韓国は(おそらく日本も)米国の軍事侵攻を思いとどまらせるよう説得するはずです。

そうなったら米国も攻撃には踏み切れません。

寄稿で指摘されている通り、独裁者は誤算を犯しますが、こと北朝鮮に限って言えば、米国の軍事攻撃を引き起こすような誤算の発生はかなり低いと思えます。

そういう点では北朝鮮は非常に強かです。

では、軍事攻撃もほぼ不可能な中、どうやって北朝鮮を抑え込むのか?

個人独裁国家に対する抑止

(中略)

核武装した独裁国家の脅威については、多国間外交では多くを期待できない。ワシントンはむしろ抑止と核備蓄へのアプローチを見直すべきだろう。2017年8月のABCニュースのインタビューで、当時のマクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は金正恩を抑止できるかどうかについてかなり懐疑的な見方を示している。「古典的な抑止理論を、どうして北朝鮮のような体制に適用できるだろうか」と彼は問いかけた。

北朝鮮の体制は、自国民に対して、口に出すのも憚られるような残忍な行為をしている。近隣諸国を常に脅威にさらし、いまやアメリカに対しても大量破壊兵器の脅威を直接的に突きつけているかもしれない。体制に反対しているとみられるあらゆる者は投獄されるか、殺害されており、これには、空港でVXガスによって殺害された金のファミリーメンバーも含まれる。

こうした体制の行動を抑止するには、服従を強いられている(相手国の)民衆ではなく、指導者を脅かさなければならない。「ワシントンが軍事力を行使するのは相手国が侵略行為をとった場合に限られ、その場合も、独裁者、体制の指導層、そして軍隊だけをターゲットにする」と明確に示す必要がある。さらに、個人独裁国家の軍高官たちに、指導者の拙速で自殺的な命令に従わないように促し、(不当な)命令に従わなかった場合には、ゴールデンパラシュート(応分の見返り)を提供するとオファーすべきだろう。

但し、これは簡単なことではない。オバマ政権の「核態勢見直し」は「アメリカ、その同盟国やパートナーに対して化学兵器や生物兵器を使用した国は、通常兵器による壊滅的な軍事的反応に遭遇するだろう。国の指導者であれ、軍の司令官であれ、その攻撃を命じた責任者個人に全責任をとらせる」と指摘していた、アメリカは新しい核ドクトリンで、オバマドクトリンが示唆したことをさらに細かに区別し、「核の使用命令を拒絶した個人独裁制国家の軍司令官が、指導者の戦争行為が引きおこした帰結の責任を問われることはない」と明記すべきだろう。

フォーリン・アフェアーズ・リポート 2018年12月号』P12-13

個人独裁の抑止には、民衆ではなく指導層をターゲットにしなくてはならず、米軍が軍事攻撃をするのは、侵略行為を行ってきた場合のみ。

こう明記して相手方に伝え内部の命令不服従者を増やせということなのでしょう。

それがすんなりうまくいくかは疑問ですが、こういう情報を伝えて、北朝鮮内部から離反者を出す戦略は大いにやるべきだと思います。

そして、独裁者の命令に従わなかった場合は見返りを用意するとオファーせよとのこと。

こういうことをやられると金正恩は嫌がるでしょう。

そしてこれらをやっていたのが朴槿恵元大統領。「北朝鮮の住民の皆さん、いつでも韓国の自由な地に来ることを望んでいます」と呼びかけ、脱北をそそのかす。

北朝鮮は激怒です。

制裁もきっちりやるべきですが、追加でやるべきことは「裏切りのそそのかし」ではないかと思います。

「情報もって逃げてきたら助けるよ。特に核施設や核兵器の実態を持ってきたら超優遇しまっせ!」と呼びかける。

「自由の国、韓国へぜひ逃げてきてください。喜んで迎えます!」とスピーカーで流したり、風船に手紙を入れて飛ばしまくる。

連絡事務所や外交交渉の場で会うたびに、高官に対して「裏切り」をこっそり耳打ちする。(北朝鮮側はバレたら即死刑なので震え上がること間違いなし)

実際裏切る気がなくとも、「このままでは死刑になる!」という危機感があれば、脱北を決意することもあるでしょう。

そうやって金正恩の腹心から切り崩す。

北朝鮮が嫌がる交渉とはこういう交渉ではないかと思います。