北朝鮮対話派の非論理性

フォーリン・アフェアーズ・リポート2017年3月号 (フォーリン・アフェアーズ・レポート)』に、「平壌と交渉しか道はない」という寄稿論文がありました。

ジョン・デルーリ延世大学准教授(中国研究)が書いたようです。

北朝鮮とは対話や外交交渉しかないと説く人は日本にもたくさんいます。

面白いもので、殺人鬼と「対話しよう!」なんて主張したら「ふざけんな!逮捕しろ!!」となるのに、国家間交渉になるとなぜかそういう論理にはならない。不思議なもんです。

いくつか理解不能な内容があったのでツッコんでおきましょう。

 

2011年に金正日がこの世を去るまでには、北朝鮮はかなりの回復を遂げていた。こうして、息子の金正恩はその就任演説で父親の先軍政治を終わらせることを示唆した。「もう、民衆に耐乏生活を強いることはない」と約束した。1年後に発表したドクトリンで彼は「核抑止と経済開発を同時に進めること」を求めた。金正恩は2013年の党中央委員会で、北朝鮮は経済開発を通じて生活レベルを改善できる「新たな歴史的ターニングポイント」を迎えていると表明した。

経済開発への彼の関心はたんなるスローガンのレベルを超えていた。核抑止と経済開発を同時に進める戦略を発表する一方で、金正恩は、改革主義のテクノクラートである朴奉珠(パクポンジュ)を経済担当の最高責任者に任命している。効率を高めるために、マネジメントの決定権を農家や工場に与え、12の経済特別区を立ち上げるとともに、(日常品の流通を)この国の闇市場ネットワークの機能に委ねた。

ショッピングモールや高層アパート、ポピュラーミュージックのコンサート会場に自ら姿を現すことで、平壌に新たに消費者階級が出現しつつあることをアピールした。厳格な制裁措置が発動され、外資の流入も限られているにも関わらず、これらの措置によって、金正恩が権力者になって以降の北朝鮮経済は年1-2%の成長を遂げ、首都平壌は経済ブームのなかにある(もっとも、その他の地域で暮らす人口のほとんどは、ギリギリの生活のなかで気力を失いつつある)。

フォーリン・アフェアーズ・リポート2017年3月号 (フォーリン・アフェアーズ・レポート)』 P39

えらく金正恩の経済政策を褒めています。

日常品の流通を闇市場ネットワークにゆだねたと言っていますが、それが何か?としか言いようがない。

国を解放して外資を呼び込み、勤勉かつ安価な労働力を武器に、世界の工場の地位を確立して外貨を稼ぎまくれば年率10%-20%成長なんてあっという間でしょう。

それをやらない限り北朝鮮労働党の経済政策なんざクソです。

だいたい「北朝鮮経済は年1-2%の成長を遂げ、首都平壌は経済ブームのなかにある」とか言っていますが、完全に論理が破綻しています。

先進国と同じくらいの経済成長ではどんどん差が開くばかりですよ。

実際に数字にしていみればいい。先進国と北朝鮮の経済規模を次のようにしましょう。

先進国 100万
北朝鮮 100

成長率はどちらも1%として、翌年の経済規模。

先進国 101万
北朝鮮 101

成長することで、9999差が開きましたね。

1-2%ごときの成長で喜んでたら話になりません。どんどん他国との経済格差は開き、日に日に相対的に貧乏でみじめな国になっていくんですが?

これで「経済開発への彼の関心はたんなるスローガンのレベルを超えていた」なんて言われても何馬鹿なこと言ってんですか?と言いたくなります。

今までのマイナス成長からプラスに転じたことでその点を強調する論調は色んなところでも見受けられますが、喜んでいいのは10%成長が10年くらい続いたときだけです。

そして致命的な論理矛盾がこれ。

実際、北朝鮮の指導者が経済を第1に据え、成長のために国を開放するようになるとすれば、「自分の国内での地位が安泰であると確信し、外国からの脅威を相殺できる」と自信をもったときだろう。将軍を降格し、指導層を入れ替え、自分の叔父を処刑したこの5年を経て、彼は国内の地位を固めることに成功しているようだ。しかし、現状では外からの脅威を相殺できる状況にはない。

フォーリン・アフェアーズ・リポート2017年3月号 (フォーリン・アフェアーズ・レポート)』 P39

国を解放する条件は「国内での地位の安泰」だそうです。

北朝鮮の指導層が一番恐れているのは、怒れる北朝鮮民衆に血祭りにあげられることです。

「外」という意味では、彼らにとって平壌以外が「外」でしょう。

その平壌「外」の脅威という視点を持てば、次の主張が論理的に矛盾していることが分かります。

しかし、二国間交渉で取り上げるべきアジェンダは核問題だけでない。トランプは金正恩に対して、北朝鮮の人権状況の改善に向けて具体的措置をとるように圧力をかける必要もある。外国渡航の禁止を緩和し、北朝鮮における外国の人権団体の行動の自由をもっと認め、政治収容所の閉鎖も求めるべきだ。

フォーリン・アフェアーズ・リポート2017年3月号 (フォーリン・アフェアーズ・レポート)』 P41

いいこと言ってますね。

核ばっかりで北朝鮮の人権問題をスルーする人が多い中でまともな提言です。

だからこそ、「平壌と交渉しか道はない」という主張は不可能だということに気づいてほしい。

交渉するとしたら、金正恩以外の幹部でしょう。もしくは地方の軍隊なんかも良いでしょうね。

その人たちに、「君たちの命は補償するから、金正恩を追放しなさい」と、交渉するならまだ分かります。

金正恩にとっては、政治犯収容所閉鎖して、移動の自由を認め、国を解放して外の情報を入れることは自殺にひとしい行為です。

自殺しろと要求する交渉が成立するわけがない。

もし成立するとしたら、「怒れる民衆が蜂起したときに、機関銃で民衆を大量虐殺して鎮圧しても我々は何も言わない」と約束することでしょう。

で?それってできます?ムリですよね?

北朝鮮の言う「体制の保障」というのはそういうことです。

「これからも党に逆らう朝鮮人殺しまくるけど文句言うな」ということです。

この「体制の保障」を第一条件にしている限り、平壌との交渉など不可能です。

いい加減、世界中の専門家には、「人間を機関銃でひき肉にする狂人とまともな交渉が成立するわけがない」という常識的な意見をもってほしいものです。