収容所よりトップの豪遊にショックを受ける北朝鮮留学生

中朝国境で北朝鮮を自由化・民主化への道へ誘導すべく地下活動をしていた金永煥氏の著書『韓国民主化から北朝鮮民主化へ―ある韓国人革命家の告白』から、収容所の実態より、指導層の腐敗にショックを受ける北朝鮮留学生とのやりとりがあったので紹介しておきます。

収容所の地獄にも当然ショックを受けるのでしょうが、それ以上に「将軍様も空腹に耐えてるんだ、だから一緒に頑張ろう!」と呼びかけていながら、実は好き勝手に豪遊していた。こういうことの方がショックが大きいようです。

 

ヒョンジュの思考に明らかに変化が生じていた。私は、北朝鮮に関連する何冊かの本も読むように渡した。政治犯収容所の体験者、姜哲煥氏が書いた「収容所の歌」という本は、ヒョンジュは最初は怖くて読めないと言った。自国のもっとも悲惨な場所での体験が赤裸々に書かれているため重過ぎたのだ。それでもその本を読了した彼女は、収容所の実態がなかなか信じられなかったようだ。「私もこうなるかもしれないから、注意しなきゃ」と、自分に言い聞かせるように呟いた。

金正日の私生活を暴いた『平壌「十五号官邸」の抜け穴』という本も渡した。金正日の甥である李韓永氏が韓国に亡命して書いた本である。この本にヒョンジュは大変なショックを受けたようだった。

「姉さん、『収容所の歌』よりも、はるかに、はるかに衝撃的よ!」

ヒョンジュは、そう言いながら本を読み進め、ページを繰りながら苦笑いをしたしり、「チッ!」と怒りを露わにしたりした。とりわけ、金正日一家が北朝鮮の歌を嫌い、韓国の流行歌を好んでいたことや、金正日が有名女優を呼んで毎日のように秘密パーティーを開いて夜を明かしていたという部分を読むと、顔をしかめて憤懣を吐き出した。

「指導層の人間が、これほどまでに腐敗しているなんて知らなかった。人民は飢えで苦しんでいるというのに、自分たちはこんな破廉恥をやっていたなんて……」

しばしば、インターネットで北朝鮮専門メディアの「デイリーNK」などの記事も見せた。強い関心を示した。特に金正日による権力掌握過程に関連する記事に対しては、「こんなことがあったのか!」と、驚きの反応を見せた。

私かヒョンジュに貸した本は、彼女の両親も興味深く読んだという。ヒョンジュのアボジ(父)は「ああ、人間よ」をとても面白く読んだと、ヒョンジュを通して感想を伝えてきたし、オモニは『平壌「十五号官邸」の抜け穴』を徹夜して読み終えた後、ワンワン泣いたという。

韓国民主化から北朝鮮民主化へ―ある韓国人革命家の告白』P227-228

姜哲煥の収容所の告発には、にわかには信じられず、茫然自失で自分もこうならないようにしなければ、、、という反応。

それに対して金一族の豪遊っぷりには「姉さん、『収容所の歌』よりも、はるかに、はるかに衝撃的よ!」という反応。

こういう反応を見ると、自由や平等という概念を北朝鮮の人たちに伝えるより、トップの腐敗を伝えた方が体制の変革にはプラスかもしれません。

ソ連も、人民に一番衝撃を与えたのはスーパーの棚に食料品が山のように積まれている映像だったそうです。

李韓永氏が北のスパイに韓国で暗殺されたのも、指導層の腐敗を暴露される方が、収容所の実態を暴露されるより、北朝鮮体制にとってダメージが大きいという証左かもしれません。