日韓慰安婦合意に大反対した人たちが終結した著書『「慰安婦」問題と未来への責任 : 日韓「合意」に抗して』。案の定というか、北朝鮮の”き”の字も脱北者の”だ”の字もない本でした。
まぁ慰安婦問題と北朝鮮の人権問題は関係ないんだ、別の問題を持ち込むな!と反論されればそれまでかもしれません。
しかし、挺対協は北朝鮮と共同声明を出すくらいズブズブの関係ですし、普遍的な女性の人権を声高に主張するのであれば中国国内で人身売買と北の収容所で性奴隷にされている女性に対して一言あっても良さそうなものです。
そちらは無視して、韓国の米軍基地売春や、ベトナム戦争時の性暴力、そして日本軍の従軍慰安婦問題にはえらく積極的なのはさすがにおかしいでしょう。
反韓・反米・反日的なわりに、北と中国で現在進行形で行われている北の同胞に対する女性の人権蹂躙をなくすためには何ら活動しない。
そういう二重基準的な発言と行動が周りの疑念を招くわけです。
『「慰安婦」問題と未来への責任 : 日韓「合意」に抗して』を読んでさすがだな~と思ったのはナビ基金について書いている箇所。
李娜榮(イ・ナヨン)社会学教授の「第11章 未来志向的責任の継承としての日本軍「慰安婦」問題解決運動」にこの本全体の特徴がよく表れていました。
まずは反米扇動の神格化。
本稿は、日本軍「慰安婦」問題解決運動が、ただ特定時期の特定の人びとの過ちを明らかにするだけの「民族主義的」な次元を超えて、平和と人権という観点から東アジアの現在と未来を展望しようという市民らの熱望と不可分であるという問題意識に端を発している。本稿は、運動の主な活動のうち、米軍の基地村「慰安婦」女性と連帯し、他地域の性暴力被害者と手を取り合おうとする〈蝶々(ナビ)基金(以下、ナビ基金)に注目し、その具体的な活動内容について述べる。
大韓民国の被害者性だけではなく加害者性まで見ようとする「挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)」の活動の記述を通じて、未来世代がこころよく享受すべきものである平和に対する責任が私たち全員にあることを喚起し、これこそが私たちが記憶すべき運動の重要な意味であることを強調したい。
『「慰安婦」問題と未来への責任 : 日韓「合意」に抗して』 P220-221
一見正しいことに思えますが、やってることは北朝鮮が大喜びする反米活動です。
アフリカの貧国国以下であった当時の韓国の実情を無視して、米軍基地村の慰安婦問題を炎上させています。
やっかいなのは現在の政争に利用されて歪められてしまうこと。
凄まじい貧困で必死に生きた人たちに感謝し、未来の世代に同じ苦しみを与えないよう必死に経済建設に従事したことを誇りに思う方向にいけば良いのですが、そうはならない。
まぁ良い面もありますので全否定はしません。現在の売春問題を解決しようとする良い側面もありますから。
ただ理解しがたいのは北朝鮮や脱北者の女性の人権問題に触れようとしない点でしょう。
他国のことだからという言い訳が聞こえてきそうですが、ナビ基金は国際的な女性の人権擁護のために作ったと自画自賛しているわけですから隣国の人権問題に触れるべきでしょう。
・・・ナビ基金は、日本軍「慰安婦」サバイバーである金福童、吉元玉の提案により始まった。二人はつねに戦争と性暴力によって苦痛をこうむってきた世界各地の女性を支援したいという意志を強く表明し、日本から賠償を受けたら全額を寄付するとまで言った。こうした志を継承したいという全世界の市民の自発的な参加によってナビ基金は具体化し、二〇一二年の三・八世界女性大会を契機に公式化された。ナビ基金発足記念の記者会見で吉元玉は、「われわれのように痛みをもった人びと」を手助けする活動に力を使ってほしいと訴えた。これに対して韓国の女性歌手イ・ヒョリが最初の民間人寄付者として映像メッセージを送り、当事者たちの崇高な心に比べて何もできない自分か恥ずかしいから寄付者になると告白し、戦争被害者に少しでも慰めとなる基金になることを望むとし、多くの人びとの参加を要請した。
『「慰安婦」問題と未来への責任 : 日韓「合意」に抗して』 P226
文章をそのまま読めば素晴らしいことですね。
全世界的に活動するためにナビ基金が創設されたうたいあげておられます。
当然隣国かつ同胞でもある北朝鮮の独裁政権下で弾圧に苦しむ人たちや、その暴圧体制から逃げてきた人たちのために基金が使われるかと思ったらそうはならない。
ナビ基金を最初に授与されたのは、コンゴ民主共和国の内戦中に強かんを受けた被害者で、他の女性被害者や子どもを支援する活動家であったレベッカ・マシカ(Rebecca Masika Katsuva)であった。
『「慰安婦」問題と未来への責任 : 日韓「合意」に抗して』 P226
コ、コンゴですか!?
いや、もちろんコンゴの強姦被害者を助けることも大事だと思いますが、最初に授与する相手は脱北者でもいいんじゃないの?と思えるんですが。
挺対協もあれだけ従北団体呼ばわりされているわけですから、そうじゃないことを示すために性暴力の被害を受けた脱北者支援に基金を使っても良さそうなもの。
それをいまだにやろうとしないようでは、そりゃ従北呼ばわりもされます。
力を入れているのは日本軍慰安婦問題、ベトナム戦争時の韓国軍兵士のベトナム女性に対する性暴力、米軍基地村の売春。それらの問題に取り組むのも大いに結構ですが、過去の問題にはえらく頑張るのに、現在進行形の脱北者や中朝国境で人身売買に苦しむ人たちのためには何もしないようでは女性の人権を語る資格はないでしょう。
やってることは過去の問題を悪魔化して反日・反米・反韓国政府(=反保守政党)運動につなげる政治活動。そして中国や北朝鮮の人権犯罪は触れないという親中・親北っぷり。
もうどうしようもない。
これだけ北朝鮮とのつながりが指摘されているわけですから、言い訳程度にでも脱北女性の人権問題に取り組めば良いのに、断固やらない。本当に謎。
一回目から三回目まで、誰にお金を渡しているか見ればその偏向っぷりがよく分かります。
一回目は上述した、レベッカ・マシカ。
二回目は、ベトナム戦争時に韓国軍によって性暴力を受けた被害者たちとその子どもたち。北朝鮮と韓国左派が一生懸命取り組んできたベトナム戦争悪魔化の一環ですね。
三回目は、インドネシアの日本軍「慰安婦」被害者。自分たちの慰安婦問題を補強するための援助です。
北朝鮮の”き”の時も、脱北者の”だ”の字もない。
そのことを指摘したらおそらく「戦時性暴力の被害者救済が目的なので、脱北者支援は基金の理念から外れる」とか言いそうです。
”戦時性暴力”に制限しているところが実に巧妙です。
この人たちのうさんくさいところは人権を高らかに歌い上げている割に、えらく差別的なことでしょう。
なぜ北朝鮮という隣国の圧倒的な人権蹂躙に沈黙するのか本当に謎です。
そういう不可解な二重基準を改められないなら、北朝鮮の人権蹂躙国家と共犯関係にあると言われても仕方ないはず。
それでは一般大衆の支持は得られません。
本当に女性の人権向上を目指すのであれば、逃げずに中国や北朝鮮で苦しむ北朝鮮の人々の人権問題にも積極的に取り組むべきでしょう。
それをやれないのなら、ただの利”北”団体でしょう。