もはや韓米同盟がない方が北朝鮮への圧力になる

日経ビジネスオンラインで連載している鈴置高史氏の『早読み 深読み 朝鮮半島』の記事をまとめて再編集した『米韓同盟消滅 (新潮新書)』という刺激的なタイトルの書籍が出版されています。

個人的には韓国のために韓米同盟は維持した方が良いという意見ですが、当の韓国が同盟がなくなっても構わないと考えているとしか思えない行動を連発するので、もはや韓米同盟がなくなった場合のことを考えないといけない状況になっていると思えます。

ただし、韓米同盟破棄・在韓米軍撤退により、朝鮮半島で戦争が起きたり、赤化統一されたりするとは思っていません。

案外、在韓米軍が撤退した方が韓国にとっても、米国にとっても都合が良いかもしれません。

その理由を説明する前に、『米韓同盟消滅 (新潮新書)』から、いかに韓米同盟が限界に達しているかを説明する内容を紹介します。

 

 

2 「根腐れ」は20世紀末から始まっていた

米韓同盟は20世紀末から。根腐れが始まっていた。共通の敵がなくなったからだ。

(中略)

ヤンキーが戦争を始める

ただ、中国が韓国の仮想敵ではなくなったとしても、韓国が北朝鮮と敵対する間は米韓同盟に意味はあった。しかし、2000年6月に史上初めて南北首脳会談が開かれて以降、韓国人の多くは北朝鮮を敵とは考えなくなった。それどころか、米国への憎しみを募らせていった。

米国は韓国に軍を駐留したいがために、朝鮮民族を分断し敵対させている――との認識が急速に広まったからだ。第1章第1節で紹介した反米左派の書籍に加え、映画が大きな影響を与えた。

初の南北首脳会談の熱気が冷めない2000年9月、娯楽大作「JSA」が公開された。軍事境界線の共同警備区域(JSA)で対峙する韓国と北朝鮮の兵士4人が上官に隠れて親しくなり、心を通わせるというストーリーだ。

深夜、北朝鮮側の哨所で南北の若い兵士が「戦争が起きたら俺たちも撃ち合うのか」と悩むシーンがある。それに対し北朝鮮の兄貴分の兵士が以下のように答えるのだ。

・ヤンキーの奴らがウォーゲームを始めれば、ここの警備兵の生存率はゼロだ。戦争開始3分以内に北南とも全滅だ。焼け野原になる。よく覚えておけ。

背景に流れる音楽は、徴兵されて入隊する兵士の心情を感傷的に歌った「二等兵の手紙」。この映画を見た韓国人の多くが「北朝鮮の同胞とも仲良くなれるのに、米国のために殺し合いをさせられている」と思っただろう。観客動員数が500万人と、当時の記録を塗り替えたのも、この映画への共感を示している。

北朝鮮との関係を描いた韓国映画は多い。民主化以前は北朝鮮を、平和を乱した憎むべき敵として描く反共映画ばかりだった。民主化後の1990年に製作された「南部軍」は韓国映画では珍しく、朝鮮戦争中の北朝鮮のパルチザンを主人公とした。

当時は、共産側の兵士を血の通う人間として描くだけでも衝撃的だった。さらに興味深いのは、朝鮮戦争の原因を北朝鮮だけに求めず、内部の争いに大国を引き込んだ朝鮮民族――自分たちの責任を問うたことだった。

だが、この視点は引き継がれなかった。「JSA」のように米国が民族を分断していると訴える映画が定番となった。「トンマッコルヘようこそ」(2005年8月公開)、「鋼鉄の雨」(2017年12月公開)などである。責任を自分たちに問うよりも、他人に押し付ける方が楽だからであろう。


軍や財界にも反米派

2002年6月13日、在韓米軍の駐屯地近くで韓国人の女子中学生2人が米軍の装甲車にはねられて死亡した。同年11月、はねた兵士は公務中との理由により、米軍事法廷で無罪となった。

これに憤った韓国人は激しい反米デモを展開。同盟の危機と判断した米国のブッシュ・子(George W.Bush)大統領は2度にわたって遺憾の意を表明した。しかし多くの韓国人が納得せず、同年12月の大統領選挙で左派の盧武鉉氏が当選する素地となった。

韓国ギャラップの同月の世論調査では、米国を肯定的に見る人が37.2%だったのに対し、否定的に見る人は53.7%もいた。それに対し北朝鮮に関しては47.4%と37.9%。韓国人は同盟国の米国よりも、軍事的に対峙する北朝鮮により近しい感情を抱くようになったのだ。

反米感情は国軍にも及んだ。当時、米国に留学した陸上自衛隊の幹部は、机を並べた。韓国陸軍の高級将校が「米国は敵だ」と公然と語るのを聞いて唖然となった。

国軍と並び、親米保守のもう1つの牙城であった経済界も変わった。反米デモに関し「女子中学生の死亡は、不幸なことだが事故だった。これをもって米国を追い出そうというのは北朝鮮を利するだけ」とまゆをひそめる人もいた。が、多くの経済人が米国への憎しみを露わにした。


マッカーサー像に放火

ある保守系紙の編集幹部に「日本は戦争で米国に負け、原爆まで落とされた。だが、今は同盟を結んでいる。韓国は米国によって日本から解放してもらい、朝鮮戦争の時にも救われた。米国に徹頭徹尾、世話になったではないか」と聞いてみた。するとこんな答が返ってきた。

・世話になったからこそ、韓国人は反米になるのだ。全力で戦った日本に対し、米国人は敬意を払う。少なくとも下に見はしない。だから日本と米国は対等の関係にある。だが米国人は「いつも助けてやっている韓国」をまともな国として扱わない。この悔しさは日本人には分かるまい。

韓国人が心の奥底に持っていた米国に対する鬱屈が噴出したのだ。この事件の後、時がたつに連れ世論調査上の反米感情は少しずつ収まった。ただ、反米のマグマが地表に顔を出す道筋が1度ついた以上、それは折に触れ噴出していくことになる。

2018年7月27日未明、韓国の反米団体は仁川市にあるマッカーサー(Douglas MacArthur)将軍の銅像に放火した。掲げた垂れ幕は「占領軍の偶像撤去」「世界非核化」「米軍を追放せよ」だった。

左派はこの銅像の撤去運動を盧武鉉政権(2003-2008年)の時から始めている。北朝鮮の侵略から守ってくれた恩人として親米のシンボルだったマッカーサー将軍は、左派にかかれば「南北分断の元凶」なのだ。韓国の空気から見て、この銅像がいつまで存在するかは分からなくなった。


64%が「北を信頼」

反米とセットになる「北朝鮮は敵ではない」との思いも韓国人の心にすっかり根付いた。韓国で左派政権が登場するたびに南北首脳会談が開かれ、必ず「民族の団結」を訴える和解劇が演出されたからである。

盧武鉉大統領は2007年10月に金正日総書記と平壌で会談した。文在寅大統領は2018年4月と5月の2回にわたり板門店で、同年9月には平壌で金正恩委員長と会った。

平壌会談後に発表した南北共同宣言で、金正恩委員長はソウル初訪問を表明した。同時に交わした軍事分野合意書では、軍事境界線一帯での軍事演習の中止も南北は約束した。

2018年4月27日、歴代政権通算で3回目となる南北首脳会談が終わった瞬間に、世論調査会社のリアルメーターが「北朝鮮の非核化と平和定着の意思に関し、会談前と後で見方が変わったか」を聞いた。

会談前から「信頼していた人」は14.7%。それが会談後には64.7%に急増した。一方、「信頼しない人」は78.3%から28.3%に激減した。

米国も韓国人の心情の変化をじっくりと観察していた。中国に続き北朝鮮も敵ではない、というなら同盟の維持は困難になるからだ。2010年頃から米国の安全保障専門家は日本のカウンターパートに「米韓同盟は、どんなに長くても20年持たない」と通告し始めた。

2013年、筆者がある米軍幹部に「米韓同盟はいつまで維持できるか」と聞いたところ、やはり「今すぐ同盟を打ち切るわけではない。だがもう、長くは持たない」との答が返ってきた。


(中略)


気乗りのしない同盟

米韓同盟は米国にとって「気乗りのしない同盟」であった。米韓相互防衛条約は朝鮮戦争後の1953年10月1日に結ばれたが、李承晩(イ・スンマン)大統領の捨て身の訴えあってのことだった。

同志社大学・村田晃嗣教授の『大統領の挫折』(1998年)は、在韓米軍の削減・撤収問題を通じ米韓同盟の本質を究めた。同書は、この同盟の負担が大きすぎるとの意識を米国は持ち続けてきたと指摘する。大統領自らが露骨に「高すぎるコスト」を口にするかは別として、在韓米軍の削減問題は米国の昔からの課題だったのだ。

『大統領の挫折』は韓国の視点からも米韓同盟を分析し、最後にさまざまな同盟の未来を予想している。

・中国の大国化か進めば、〈日本要因〉が再び大きな意味を持つことになろう。在韓米軍が完全撤退すれば、日中両大国の利害が、朝鮮半島で直接交差することになるからである。そうなれば日清戦争以来初めての事態であり、米国もこれは望むまい。反日感情を媒介にして韓国が中国に接近し、日本を仮想敵国とみなすような可能性も否定できない(29ページ)。

1998年の段階で、台頭する中国に韓国が接近する可能性を指摘しているのは興味深い。「反日」だけではなく「反米」への言及もある。

・韓国の側でも、統一後のユーフォリズム(幸福感)からナショナリズムが高揚し、戦略環境にかかわりなく米軍の撤退を求める声が高まる可能性がある(294-295ページ)。

村田教授は「統一後」の話として韓国が在韓米軍の撤退――同盟廃棄を要求するかもしれないと予想した。が、現実には「統一以前」からそれが噴出した。事態は予想以上に速く変化しているのだ。

米韓同盟消滅 (新潮新書)』P34-46

韓米同盟を指して血盟(血で結ばれた同盟)と評するも、これが実態です。

2000年代を境に、米国が半島に軍隊を駐屯させたいから南北の和解を邪魔しているという認識が広まる。

米軍の装甲車が女子学生2人を轢き殺して反米感情に火が付く。

日本の自衛隊員が、韓国陸軍の高級将校が「米国は敵だ」と公然と語るのを聞いて唖然となる。

もはや北朝鮮の侵略から守ってくれた恩人として親米のシンボルだったマッカーサー将軍は、左派によって「南北分断の元凶」へと失墜。

この感情・認識が広く行きわたり、韓米同盟を支える土台から腐り始めているわけです。

そりゃ同盟破棄も現実的になります。

深刻なのは「韓国は米国によって日本から解放してもらい、朝鮮戦争の時にも救われた。米国に徹頭徹尾、世話になったではないか」と聞いたときの回答。

「世話になったからこそ、韓国人は反米になるのだ。全力で戦った日本に対し、米国人は敬意を払う。少なくとも下に見はしない。だから日本と米国は対等の関係にある。だが米国人は「いつも助けてやっている韓国」をまともな国として扱わない。この悔しさは日本人には分かるまい」

これは悩ましいですね。

「え~、別に涙流して感謝感激する必要はないと思うけど、韓国にとって多大なプラスを与えてくれたよね~」くらいには思ってもいいんじゃない?と言いたくなるのですが、これが鬱屈した憎悪に転嫁するんですから問題は深刻です。

アメリカ側も韓米同盟はもうもたないとあきらめの声がちらほら出るくらいですから、破綻はそう遠くないかもしれません。

ただ、同盟破棄や在韓米軍撤退が一概に悪いとも言えません。

なぜか?

(次ページに続く)

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