『跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実体』北朝鮮専門家の韓国人を泣かせることができる朝鮮学校の教育援助金神話

帰国事業
跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実体 金柱聖著

以前の投稿(『跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実体』朝鮮学校 洗脳教育の手法)で、朝鮮学校で行われている教育援助金による洗脳手法を紹介しました。

その続きで、いかにこの手法が強力であるかを証明するエピソードがあるので紹介します。

そのエピソードとは驚くなかれ、北朝鮮専門家の韓国人を「朝鮮学校の教育援助金神話」で嗚咽を漏らすほど泣かせたという驚きの逸話。さらにはその結果「金日成さんて、本当に温かくて人間味のあるお父さんのような方だったんですね」と言わしめる。

今の南北融和ムードに浮かれている韓国世論を見ると、まさにこの本に書かれている洗脳・宣伝扇動手法が、韓国という国全体に行われているということがよく分かります。

 

跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実体』P80-85

教育援助費と奨学金にまつわる話はまだある。

1956年、韓徳鉄議長が東京都北区の東京朝鮮中高級学校の敷地に、「朝鮮大学校」という2年制度の大学校を建てた時の話だ。かさむ建設費用に頭を抱えていた韓徳銖議長に、ある日突然、吉報か入ってきた。

「議長、驚かないでください。祖国から、首相様がお金を、教育援助費と奨学金を送ってくれました!」

韓徳銖議長は感激し、その場で涙を流しながら歌を作った。この時作られたという歌を、後々、私のような朝鮮学校に通う子供だちか援助費と奨学金を授けられるたびに歌った。『祖国の愛は限りない』というタイトルの歌だった。

国から国からお金が送られるとは
夢にも夢にも思ってもなかった
教育援助費と奨学金の莫大なお金を
海を越え、遠くにある祖国から送られてきた
首領の大きなこの愛を
山や海と(どのようにして)比べられようか
(『祖国の愛は限りない』作詞:韓徳銖 作曲:崔東玉)

実はこの歌が作られた経緯には、ある裏話かあった。

歌詞の中には、戦後復興の苦しい中、金日成氏がお金を送ったという表現か出てくる。そしてその背景となった物語まで、描かれている。

戦争が終わり、復興のために国全体か四苦八苦していたある日、国の最高官僚の会議で国家予算案の報告を受けた金日成氏が、経済担当の閣僚に反論したという。

「なぜ、予算案の中に在日同胞の子供たちに送る援助費と奨学金の項目かないのだ?」

彼の問いに集まった閣僚たちは驚いた。

「首相、今国内復旧建設のために一銭たりとも無駄にはできない大変な時期です。食料も不足しているし、家のない国民か統計を出せないほどたくさんいます。在日の問題を今論ずるのは、少し場違いだと思います」

鄭準沢(チョンジュンタク)氏というのちに副首相になるブレーンが、辛辣な意見を述べた。当時、北朝鮮の経済政策における〝ブレーン〟と呼ばれていた人物である。

「金日成同志! あなたは正気ですか? 戦争の傷が癒えてもないのに、身近にいる子供の面倒を見ないで遠く離れている子供のことを優先するのは、筋が違うと思いますよ!」

続いて、崔賢(現在北の最高位層である崔竜海の父親)氏という軍部閣僚も、率直な意見を言う。

彼は根っからの軍人で、金日成氏の抗日パルチザン時代からの戦友でもある。崔賢のほうか年も上だし、中国共産軍での階級もずっと上だったらしい。唯一、金日成氏に気兼ねしないで話ができる人物でもあった。

そんな崔賢氏の意見を含め、閣僚だもの意見を聞いた金日成氏は、何も言わずに窓辺に近寄り、静かに話し出した。

「君たちはなぜ、私の心をわかってくれないのだ。君たちや人民は、草の根をかじって飢えをしのいだり、家かなくて路上で石を枕にして寝る耐えがたい苦労をしたりしたとしても、〝祖国〟の草をかじり、〝祖国〟の石を枕にして寝られるではないか。祖国の草と石を!

この言葉に、その場にいた幹部たちはみな呆然とした。そして、窓辺に立っている金日成氏の顔を見ると、その両頬には涙が流れていたという。

「今、韓徳鉄同志が総連を組織し、子供たちに民族教育を施すため、皇居のある東京に堂々と朝鮮大学校を築いたらしい。祖国ではない〝異国〟でだぞ! 彼の手に60万人の同胞たちの運命が、その子供たちの未来か懸かっているのだ。その60万人は共和国の海外公民なんだ。首相である私か、親である私か、そんな彼らを無視できるか!

そう怒鳴り、金日成氏はドアを蹴って出ていったという。

そして、その後向かったところか、降仙製鋼所だった。日帝時代(日本統治時代)に建てられた工場で、戦後復旧建設のため、「あと1万トンの鋼材かあればお国が腰を伸ばせる」と、製鋼所の稼働が重要視されていた。しかし、当時の降仙製鋼所は年に6万トンの鋼材を生産するのが精一杯で、さらに1万トンの増産は不可能と言われていた。そこに金日成氏が訪ねていき、労働者たちに向かってこう、〝扇動〟した。

「我が国は労働者である君たちの国だ。国の主権も君たちのものだ。今、復興をするには1万トンの鋼材ではとても足りない。しかし私は君たちを信じる。そして君たちは私を信じてくれ。お互いの信頼関係でこの難事を切り抜いていこう」

すると奇跡が起こり、降仙製鋼所の労働者たちは公称能力の年6万トンを打ち破って年12万トンの鋼材を生産したという。この奇跡を北朝鮮の現代史では「〝千里馬運動の先駆者〟たちの革命精神」という。そして、その時から「降仙」という製鋼所の名前か「千里馬製鋼連合企業所」に変わったのだ。

結局、金日成氏と労働者たちの信頼が生んだ奇跡のおかげで、初の教育援助費と奨学金か日本に送られたというオチである。もちろん、この話のどこからどこまでか本当なのかは、誰も知る術かない。

ただ、こういった、いわゆる〝奇跡のような話〟を挙げることによって、北朝鮮という国の体系原理や洗脳方法などを理解してもらえるのではないかと思う。

こんなのに騙される奴がいるのか?という人がいるかもしれませんが、実際にいるんですからどうしようもない。

日本に苦しめられる同胞⇒祖国は自分たちを気にかけてくれている⇒祖国が苦しい状況で金日成主席と労働者たちが奇跡を起こす⇒そのお金を異国の地で暮らす自分たちに送ってくれた⇒自分たちが大変な時になんてありがたい!!⇒おかげさまで朝鮮学校が建設でき、民族教育を子供たちにできるようになった!⇒今度は自分たちが祖国を助ける番だ!!

やりたいことはこんな感じでしょうか。どう思想誘導したいかがよく分かります。

それにしても祖国推しがウザい限り。

我々は飢えても祖国の草をかじれるし、祖国の石を枕にできるだろう!祖国の草と石を!!という説得には笑わせてもらいました。

北朝鮮国内で、実際に草をかじって飢えをしのぎ、路上で寝ている人たちに、自由な日本に生まれて、先進国水準の生活をしている在日朝鮮人から、「君たちは飢えて草をかじっても、家がなく石を枕に寝ても、草も石も祖国のものじゃないか!我々は良い暮らしをしていても全部異国のものなんだ!!」と言ってみてもらいたいものですね。間違いなくボコられるでしょう。

韓徳銖に対して金日成が、「彼の手に60万人の同胞たちの運命が、その子供たちの未来か懸かっている」というストーリーも喜劇ですね。総連内に北同様の独裁体制を構築した人間です。

このロクデナシのせいで、在日同胞60万とその子供たちの未来がどれだけぐちゃぐちゃにされたか。

もうこの手の話に騙される人はいないと言う人がいるでしょうが、そんなことはありません。仮に北朝鮮の実態を知っていたとしても、感情を揺さぶられれば容易に思想コントロールを受けてしまいます。

何せ次のように、北朝鮮専門家の韓国人が、この朝鮮学校の教育援助金神話を聞いて涙を流し、「金さん、もうやめてください。金日成さんて、本当に温かくて人間味のあるお父さんのような方だったんですね。私、感激しました」と言うくらいです。

あれは、韓国の「北韓大学院大学」という大学院で修士課程に通っている時だった。韓国人の若い(といっても30代)女性たちに〝在日帰国者〟について話をしたことがあった。彼女たちが興味かあるのは〝洗脳教育〟だというので、私は冗談半分に、「北朝鮮式の宣伝扇動であなたたちを泣かせてみせましょうか?」と言った。

金さん、それは無理でしょう。私たちは北韓問題の専門家なんですよ? もし泣かすことかできたら、夕ご飯は私だちか奢りますよ

そして先述の奇跡の物語、つまり金日成氏が送った〝初の教育援助費と奨学金〟ストーリーをより壮大に語った。話し始めて30分ほどか過ぎた時だった。2人の女性かハンカチで目じりを押さえ、しくしく泣き始めた。残りのひとりに至っては、ほぼ嗚咽に近い泣き声をあげていた。彼女か一番たかをくくっていた人だった。

「金さん、もうやめてください。金日成さんて、本当に温かくて人間味のあるお父さんのような方だったんですね。私、感激しました」

冗談で話していた私ですら、驚くほどの効果だった。話を聞くまで、彼女は金日成氏を呼び捨てにしていたのに、そこまで簡単に〝洗脳〟されてくれるとは思わなかった。おかげで私は、高級料理を奢ってもらうことができたのだが――。

人様の感性をくすぐる、そしてその感性を論理化していく過程か、いわゆる〝洗脳〟ではないだろうか。

そしてこれこそが、北朝鮮の作家たちにもっとも求められる能力でもあった。

情報が自由に入ってきて、北朝鮮の実態を知っている韓国人ですら泣かせることができる。

これぞ北朝鮮の感情コントロール、宣伝扇動の神髄でしょう。

最後には嗚咽を漏らすほど泣いて、「金日成さんて、本当に温かくて人間味のあるお父さんのような方だったんですね」と言い出す始末。

この辺が、北朝鮮の圧政と独裁体制を維持できてしまう根本原因だろうと思います。

いくら核武装をして軍備拡張をしたところで、独裁体制は維持できません。洗脳教育がなければ、軍拡した軍隊が裏切る可能性があるからです。

ルーマニアのチャウシェスクは、国軍戦車に乗った国民に追い出されました。つまり軍隊が市民の側に立って独裁者を追い出したわけです。

北朝鮮(あと中国も)は、崩壊した独裁国家の原因をよく研究しています。

洗脳教育で忠誠を誓う人間を作り、その人間に銃を持たせてそれ以外の人間を管理させる。人数を集めて竹やりもたせれば、それなにり抵抗できた昔のローテク時代とはわけが違います。マシンガンを持った人間に、無手では1対1000でも勝てません。

逆らったところで銃弾一発で殺されるだけでは、犬死です。いくら不満でも耐えるしかない。

それが何十年も続けば、支配される側もその状況に慣れてしまい、隷属が一般化します。

見ざる、聞かざる、言わざるで、政府の言うことに唯々諾々と従うことが生き残るための処世術となります。

ここまでガチガチの統制体制になってしまうと、外からの強制力・影響力がないと崩せなくなります。

その外圧も核とミサイルで排除できれば、怖いものなし。

本来、当たり前のように「自由」を享受し、「基本的な人権」を保証されている外の人間が、独裁打破のために働き掛けないといけないのに、むしろ独裁体制の維持に協力してしまう。

それどころか、笑顔で握手をしただけで「意外と話せる」とか、「信頼できる」とか、「平和を実現するパートナーと見よう」などなど、驚きの融和論が乱れ飛ぶわけです。

さらに信じがたいのは「体制の保障」を当たり前のように約束する姿勢です。自由もなく、移動も好きにできず、韓流ドラマを見ただけで収容所行きになる。そんな国の体制を保障すると気軽に約束できる神経が信じがたい。

己の安全のために他人を奴隷に売り渡す行為です。

明らかにおかしいことをおかしいと思わせない。

これぞ北朝鮮の宣伝扇動の真骨頂と言えます。

敵を知り己を知れば百戦危うからず。北朝鮮の洗脳や宣伝扇動手法を知って、一人ひとりが騙されないようにすることが大事です。

そういう人が増えれば、メディアも報道内容が変わり、政治家も変わり、北の暴圧体制維持にいつも利用されてしまう対北朝鮮外交も変わるはずです。

そのたにもぜひ『跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実体』をご一読ください。

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