この本は、強制収容所から脱出した方の手記です。ここでは、強制収容所内での子供達がどれだけ残酷な目にあっているかが書かれています。この強制収容所の実態を知らずに、北朝鮮は語れないでしょう。
『北朝鮮脱出〈上〉地獄の政治犯収容所』 P140-144
<金起雲先生はどこへ行ったのだろうか。たぶん、私たちに対し、あまりにも親切にしたせいで追い出されたのにちがいない……>
過ぎ去った日々が次から次へと浮かんできた。飴玉をくれたこと、私の肩に手を乗せて親切に語りかけてくれたこと……。いろいろなことが走馬灯のように頭の中を通り過ぎた。このように心の奥底から泣けてくるのは初めてであった。人間は実に不思議である。保衛員がわめき散らしながら殴りつけたとき、痛さのあまり涙が出たことがあった。しかしそのときの私の涙は、それとは質が違うようであった。私は久しぶりに声を出して泣いた。
数日後、新しい担任がやって来た。
「俺は昨日、龍坪から来た。龍坪の学生は素直に言うことを聞いた。みなおまえたちより重罪人ではあるが、熱心に学習し、作業もしている。聞くところによると、おまえらの学級は前の教員が甘やかしたので、風紀が乱れているそうだな。俺はおまえたちを、龍坪にいる生徒と同じように、言うことをよく聞く子供にするつもりである。だから俺を前の先生と同じに考えたらとんでもないことになるぞ」
新任の担任教員の初めての挨拶はこうであった。私はそのとき「やはり金起雲先生は追い出されたんだ」ということをハッキリと知った。
その崔成根教員は、最初の日から学習を省略しすぐさま作業をさせた。最初に与えられた作業は、学習班別に薪を割って積み上げることであった。
(中略)
夕方になって担任教員が検閲に現われた。歩きながら作業量を検閲した教員が最後に私たちの組にやってきた。
「おまえら、なんでこれっぽっきりなんだ」
崔成根教員の顔はたちまち険悪になった。
「いつもこの程度なんですけれど」
正澈はしらばくれて言った。すると突然、熊のように大きな体をした崔教員が靴で正澈を蹴とばした。
歳も四十を越え、熊のように鈍重に見える彼の行動はあまりにもすばやく、あっという間の出来事だった。正澈はぐうの音も出ず前方にばったりと倒れた。
「なんだと、いつもこの程度だと。なめるんじゃない」
担任ははあはあと息を荒く吐きながら、私と正澈、英洙の三人全員を靴で蹴とばし、こん棒で容赦なく殴りつけた。私はあまりの痛さに這ってその殴打を避けようとした。
「なんだこの野郎、どこへ逃げようとしているんだ、こっちにこい」
彼は靴を私の背中の上に乗せ、力いっぱい踏みにじった。
「痛い!」
「なにを甘ったれてんだ、早く立て」
しかし私は立ち上がれなかった。全身が火に焼かれたするめのように丸まり、体中がひりひりと痛んだ。
「立ち上がらないか」
私は尻を蹴とばされたはずみでやっと立ち上がることができた。
「ついてこい」
彼は私たちを連れて教室へ入った。すでに入室してざわついていた生徒たちは、私たちの姿を見て、突然水をかけられたように静かになった。崔教員は机をドンと叩いた。
「俺を前の教員のように思ったら、とんでもないことになると言っただろう。よく見ておれ。誰であれ、命令に服従しなければどうなるかを、今日みんなに見せてくれる」
彼は言い終えると三人を廊下へ引きずって行った。
「さあ今からおまえらは犬だ。だから、犬のように這いずりまわって俺についてこい」
私たちにはとてもそれはできなかった。そのままじっと立っていると、彼は気が狂ったように私たちの頭を殴りつけ、痰やつばを吐きかけた。そして、その痰が黄英洙の顔に当たり、顔の真中に黄色い痰が張りついた。英洙は激怒のあまりわれを忘れて、
「何ですかこれは、何んてことするんですか」
と食ってかかった。その瞬間、崔教員の顔は突然、糞を食らったように激しくゆがんだ。
「反動野郎が何をぬかすか」
彼は完全に理性を失って英洙を殴り始めた。どこからそんな力が湧いてくるのか、疲れを知らぬほどであった。私と正澈はそのおかげでムチ打ちをまぬがれたけれど、英洙がボールのように蹴とばされ、むちゃくちゃに殴りつけられる姿を見ると胸が痛み、かわいそうでならなかった。
思う存分腹いせをした崔教員は、ついに英洙が微動だにしなくなると、息をぜいぜい吐きながら、その手を休めた。英洙は頭のてっぺんから足の先まで、全身傷だらけであった。顔は血と皮がまぜこぜになっていた。ぴくりともしないで倒れている英洙の体が小さく、軽く見えた。私は彼が死んだのではないかと怖くなった。正澈も怖じ気ついた目で黙って立っていた。
どれぐらい経つただろうか黄英洙は少しずつ動き始めた。
〈生きているんだ……〉
私の胸にうれしさがこみ上げてきた。正澈と私は英洙を助け起こし、教室へ連れて入った。時間がだいぶ経っていたにもかかわらず、担任教員は精神改造をやるんだと言って、教室で生徒をつかまえて説教していた。私たちが入って来るのを見ると、しばらくチョッパリの野郎とかさんざんに悪口をたたいたのちに、
「おまえらみたいなやつはこれから三ヵ月、強制労働させる」
と最終判決を下した。
「おまえたちも、このジェポ(在日僑胞)の野郎みたいに甘ったれて猿知恵なんかを働かせ、俺の言うことをおろそかにすると、こんなことになるんだぞ。わかったか」
これが教師の行うことかと、愕然とします。熊のような体格の大人が、子供をこん棒で血だるまになるまで殴りつける。ありえない暴挙です。これを国家が主導し、強制収容所で容赦なく行っています。これが北朝鮮の現実です。この事実に平和を愛するリベラルは一切騒ぎません。彼らの良心はどこに消え去ったのか、本当に恐ろしいです。
さらにこの暴挙を容認し、反動分子を容赦なくこらしめろと指示しているのが、北の暴君なわけです。その人物を「敬愛する将軍様」と書いた教科書を使い、褒めたたえさせる。恐ろしく残酷な教育を日本の朝鮮学校は行っています。朝鮮民族を容赦なく弾圧し、虐殺している首班を愛するように教育する。これで民族教育と言えるでしょうか?
どうせ信じない、などという反論は言い訳になりません。ドイツ人に、「敬愛するヒトラー」と書いた教科書で授業をする。信じないからと言って問題ないとはならないはずです。ユダヤ人に、ホロコーストは素晴らしかったと教える。ありえない暴挙のはずです。帰還事業を素晴らしいことと教えるのもこれと同じくらいありえないことのはずです。
残酷に殺された朝鮮同胞のために涙し、黙とうを捧げ、冥福を祈る。それこそが真の朝鮮民族の民族教育ではないでしょうか?朝鮮学校はそのことに一刻も早く気づき、残酷な教育をやめてもらいたい。そう願ってやみません。
※トップの画像は『北朝鮮全巨里(チョンゴリ)教化所―人道犯罪の現場』より近いイメージのものを引用。
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