韓国進歩派の北朝鮮人権問題に対する姿勢

金大中時代から「太陽政策」の知恵袋として主導的な役割を果たしてきた文正仁氏。彼の著書から韓国リベラル派が北朝鮮の人権問題に沈黙する典型的な「言い訳」が書かれていたので紹介しておきます。

 

北朝鮮における人権の無視か?

太陽政策をめぐる最も厳しい批判の一つは、北朝鮮における人権状況に沈黙しているという主張である。金大中大統領は、彼自身人権侵害の被害者であり、民主主義と人権を擁護することによって、国内的名声と国際的名声を確立した。

しかし保守勢力は、金火中元大統領が北朝鮮の抑圧された窮状を放置したと主張する。(*この主張は、2006年11月25日に、韓国の有名なベテラン保守派の人々を代表する526人の代表によって採択された「朝鮮半島の平和宣言」という文書の中で述べられた。)

保守派は金大中大統領が、北朝鮮における人権問題に消極的である一方、ミャンマーや他の地域における民主主義や人権問題の解決に取り組むという、二重基準の偽善者だと主張する。金大中大統領自身、この点にひどく苦悶した。なぜ彼は北朝鮮の人権問題に受け身の立場を維持し続けたのか。

まず、金大中大統領は、平和と人権の間のトレード・オフを懸念していた。太陽政策の主たる目的は、南北朝鮮間の平和的共存である。もしもソウルが北朝鮮における人権問題を公式に掲げれば、平壌はこれを国内問題への干渉とみなし、緊張の悪化は避けられないであろう。さらに、「不侵略、和解、二国間交流、および協力に関する1991年南北基本合意」は、国内問題への不干渉原則を規定している。したがって、人権問題を公式に出すことは容易ではなかった。

次に金大中大統領は、人権とベーシック・ヒューマン・ニーズとの間のトレード・オフに取り組まざるを得なかった。金大中大統領は、北朝鮮の人々の生命を守るうえでの人権問題の重要性に敏感に気付いていた。

しかし金大中大統領は、特に子どもや最も弱い立場の人々の栄養不良や飢餓の問題を解決することに、より重点を置いた。こうして、北朝鮮に対する人道援助を行うことが重要な問題となったが、ここにジレンマが生じた。すなわち、もしソウルが平壌の体制による人権侵害を非難すれば、平壌は韓国からの人道支援を受けることを拒否するだろうというジレンマである。この点は過去にも起きているだけでなく、最近も李明博政権期間中に起こっている。そこで、北朝鮮の人々のベーシック・ヒューマン・ニーズのために、金大中大統領は、北朝鮮の民主主義の失敗と人権侵害に妥協せざるを得ないと感じていた。

最後に、金大中大統領と彼に敵対する人々の間には戦略的な相違があるという点を指摘したい。金大中大統領は、民主主義と人権は外から押し付けられるものではなく、北朝鮮の人々が内側からの闘いによって自分たちで勝ち取るべきだというのが理想だと信じていた。彼は市民社会の拡大と中間層の出現が、北朝鮮における人権と民主主義のための欠かせない推進力になるだろうと考えていた。市場を基盤としたシステムとそれに伴う民間セクターは、市民社会を拡大し、生まれたばかりの中間層の成長を助ける確実な方法であった。しかし、市場システムは、開放と変革なしではあり得ない。そのため、金大中大統領は、北朝鮮との信頼を醸成し、北朝鮮が開放と変革を行うよう説得するために熱心に取り組んだのである。この点からみても、太陽政策は、北朝鮮の人権問題の放置という問題に必ずしも責任があるわけではない。実際のところ、北朝鮮において人権と民主主義を確立する状況を促進することは、巧妙かつ長期間の戦略と見なされることもあるであろう。

太陽政策―朝鮮半島の平和への道』P237-239

一理あるように思えますが、こめかにみ銃口を突き付けられている人に、自分の命を守りたいならあなた自身が闘うべきだ、と言っているに等しい妄言と言えます。

「平和と人権の間のトレード・オフ」は、戦争を避けるためなら北朝鮮の人権問題には沈黙する。

どれだけ弾圧しても無視する。

平和のためなら。

と、いうことです。

この論理が通用するなら、世界の独裁国家は万々歳でしょう。

国際社会から人権問題について批判されたら、「だったら戦争するぞ!」の一言で黙認してくれるわけですから。

「人権とベーシック・ヒューマン・ニーズとの間のトレード・オフ」を主張し、「子どもや最も弱い立場の人々の栄養不良や飢餓の問題を解決する」ために政治犯収容所をはじめとした人権問題について沈黙しては本末転倒です。

「最も弱い立場の人々」を守るためと言いながら、収容所に入れられた最も弱い立場の人を見捨てているわけですから。

「北朝鮮の人々のベーシック・ヒューマン・ニーズのために、金大中大統領は、北朝鮮の民主主義の失敗と人権侵害に妥協せざるを得ない」と考え、「ソウルが平壌の体制による人権侵害を非難すれば、平壌は韓国からの人道支援を受けることを拒否するだろうというジレンマ」に陥ったそうです。

アホかと。

人助けをしたいのに、その加害者にお願いして「人助けさせてください」お願いするとはどういうことなのか? 本当に意味が分からない。

最悪なのはこれでしょう。

「金大中大統領は、民主主義と人権は外から押し付けられるものではなく、北朝鮮の人々が内側からの闘いによって自分たちで勝ち取るべきだというのが理想だと信じていた」

きっと人権弾圧の基準が朴正煕時代レベルの認識なのでしょう。

学生がしょっちゅう街頭に繰り出してデモができる国家体制と北朝鮮が一緒なわけがない。

仮に北朝鮮なみの弾圧を韓国がやっていたら、民主化などできていません。

デモをやった瞬間、自分の親兄弟、親戚一同が収容所送りになる。この暴圧体制下で「内側から民主化を勝ち取る」など不可能です。

「民主主義と人権は外から押し付けられるものではなく、北朝鮮の人々が内側からの闘いによって自分たちで勝ち取るべき」という発言がいかに最悪かが分かろうというものです。

「外から押し付け」と表現してダメなことのように印象操作をしていますが、押し付けではなく外から支援でしょう、どう考えても。

外から支援せずにどうやって北朝鮮国民が「国家に殺されない権利」を得られるというのでしょうか?

帰還事業で帰った在日朝鮮人たちも日本では民族の権利のために警察官と暴力上等でガンガン権利闘争をしていましたが、北朝鮮に行った途端に借りてきた猫のように大人しくなりました。別にヘタレだと馬鹿になどしていません。逆らったら躊躇なく脳天に鉛玉ぶち込む相手に、権利闘争など不可能だということです。

その実態を知らずに「北朝鮮の人々が自分自身の手で自由・人権・民主主義を勝ち取るべき」という意見は残酷です。

人でなしの発言でしょう。

戦争しろとは言いませんが、外からガンガン批判するくらいはやるべきです。人として。飢餓に苦しむ子どものに人道支援をしたいから批判を控えるなど本末転倒でしょう。

金大中大統領が「市民社会の拡大と中間層の出現が、北朝鮮における人権と民主主義のための欠かせない推進力になるだろうと考えていた」と著者は言いますが、中国を見て同じことを言えるのかと問いたい。

だいぶ豊かになって中間層も増えましたが、自由も民主も皆無です。

ネット監視、電話盗聴、監視カメラとAIのコンボで、抑圧体制が洗練されています。

仮に北朝鮮の制裁を解除して経済支援をしたら、ウイグルで実証実験を経た中国の監視システムが北朝鮮にそのまま移植され、豊かになった中間層をきっちり監視してくれることでしょう。こんな状態では永遠に人権改善も民主化も自由化も訪れません。

「金大中大統領は、北朝鮮との信頼を醸成し、北朝鮮が開放と変革を行うよう説得するために熱心に取り組んだ」そうですが、金大中がやらずとも中国が繰り返し「改革・開放」を説得し続けてきました。

しかし、変わってません。

なぜか?

体制不安になるからです。

北朝鮮との信頼という点では、金大中大統領など中国の足元にも及びません。

その血盟である中国がいくら説得しても開放も変革もなかったわけです。

特に韓国からの情報など徹底して遮断しようとしているのが北朝鮮です。

その相手に対して「信頼を醸成」し、「開放と変革を行うよう説得」するなど不可能でしょう。

なぜそんなバカな思考回路になるのか謎です。

最後は「北朝鮮において人権と民主主義を確立する状況を促進することは、巧妙かつ長期間の戦略と見なされることもあるであろう」と述べて、太陽政策が北朝鮮の人権弾圧に加担したという批判に反論しています。

もっともらしく聞こえる言い訳です。

そもそも、強制収容所閉鎖、連座制・密告制・公開銃殺の廃止、拷問の停止を実現するために、「長期間の戦略」など必要ありません。

「人殺しをやめろ」

やめるまでこれを言い続けるだけです。

その結果、向こうが対話を拒否したからと言って何が問題なのか?

「人殺しをやめろ」というだけなのに、南北の平和が壊れるからやめろと言われても納得いきません。

「平和と人権のトレード・オフ」だのとごたくを並べて、殺人鬼を擁護するような真似はやめてほしいものです。

韓国左派の「太陽政策」というお花畑プランを知るには良い著書です。

所感としては、「そうなればいいけど北朝鮮だっておたくらの狙いなんぞは分かってるんだから、あんたらの思い通りになるわけないだろ?」という感じです。

太陽政策論者も、最後は北朝鮮の自由化・民主化を目指しているわけですよ。

そんなもん北朝鮮の体制崩壊と同義なわけです。

「市場を基盤としたシステムとそれに伴う民間セクターは、市民社会を拡大し、生まれたばかりの中間層の成長を助ける確実な方法」という狙いは北朝鮮だって十二分に理解しているわけです。その先は自由化・民主化=体制崩壊なわけですよ。そうはならないよう向こうも対策してきます。

笑顔で毒を飲ませようとしても、相手が毒だと分かっていたら飲むわけがない。

太陽政策は、基本お花畑です。

もしうまくいくとしたら、北朝鮮から人を出すことや、情報閉鎖を崩すような施策でしょう。

今は労働者派遣が禁止されていますが、一部制裁解除として韓国限定で労働者派遣を解禁する。禁止されている韓国テレビ放送を北朝鮮国内で解禁する。北朝鮮で浮浪児となっている孤児を韓国の孤児院で引き取る。そういう太陽政策ならおそらくうまくいくでしょう。

しかし、そうはなっていません。

いつも韓国から北朝鮮への一方通行パターンです。

これでは意味がない。

いい加減、悟ってほしいものです。

どうせ無理なんだから最初から夢なんか見るなと言いたいですね。

困ったもんです。