48時間以内に重大な決断をすると言って、結局何もしないんじゃないの?という報道が日本でなされてましたが、あっさり攻撃決断。
マーケットへの影響を最小限に抑えるために、週末に攻撃決行。化学兵器施設だけ破壊して終わり。週明け株価は乱高下することもなく平常運転。
世界も戦争慣れしたもんです。
当然と言えば当然ですが、反戦・平和のリベラルの皆さんがシリア攻撃を批判しています。
この手の人たちの問題は「じゃあどうすべきなの?」という対案がないことでしょうね。
化学兵器は禁止だと国際法で決められているんですから、使ったら制裁を食らうのは当然です。というか何もしなければ国際法の意味がない。
限定的に化学兵器施設を破壊したんですから、別に問題ないでしょう。
こういうことは機械的にちゃんとやらないといけません。そうでなければ誰も国際法を守らなくなります。
こういうことに「米国はなんでも自分が正しいと思っている!」なんて批判はズレてます。
まぁただ、何を目的とするかで評価は違ってくるかもしれません。
シリアの安定や秩序回復にプラスかと問われれば、あまり効果はない、となりそうです。
化学兵器が使いづらくなる、という点では効果はあるでしょう。そういう点では評価できます。
米国の本音である「シリアから撤退したい」という点ではマイナスです。
中国を抑えるために、アジアへ重心を移してほしいと願う日本や台湾としては、中東から足抜けできないのはマイナスです。同じ理由で中国や北朝鮮的には、プラスです。
一番大事で重視しなくてはいけないのに、無視されがちなシリア国民の幸福という点では実に悩ましい。
「いっそアサドに任せよう。そうすれば戦争は止まる。死者も出なくなる」
こう言われると反論は難しい。
しかし、中東の独裁者も北朝鮮のような残虐行為は平気でやります。
北朝鮮並みの政治犯収容所はないにしても、秘密警察がいろんな機関に入り込んで、複数の情報組織が互いを相互監視し、反体制の人間を簡単に殺します。
その過程で拷問もあれば、親族が連座して一緒に捕まることも当然のように行われます。
「紛争停止と平和という美名の裏で、そんな残虐な独裁者にシリア人を売り渡して良いのか?」と言われれば、これまた反論は難しい。
中東紛争の悩ましいところは、「答えがない」ことでしょう。
「敵の敵は味方」とはならず、「敵の敵もみんな敵」というバトルロワイヤル状態のせいで、何をどうやってもうまくいかない。
好ましいと思っている集団を支援しても、その集団の中からとんでもない独裁者が誕生したりします。イラクのサダム・フセインが良い例でしょう。
一番良い結果を生むとすれば、親欧米のイスラム穏健家が愛国心に燃えて命がけでイスラム過激派と戦うようになり、欧米の支援を受けて秩序回復と産業振興を行うことでしょう。
その経済成長の過程で民主制も定着し、一般民衆が殺されることもなくなります。
こう書くと、うんうんその通りという人もいるでしょうが、これが大変難しい。
反欧米感情がこの「幸福への唯一の道」を邪魔します。
親欧米の集団が政権を握ればイスラム過激派が元気になります。またその過激派にエールを送る民衆もいます。
「イスラムの価値観」が猛プッシュされるでしょう。それだけならともかく、セットで反キリスト・反欧米が炎上します。
誰だって敵だらけのところに進出したいと思う欧米企業もないでしょうから、産業振興にとってマイナスになります。
戦後の秩序回復と安定には、「怒涛の経済成長」が必須です。これがないとだいたい不安定化して、過去の傷が開いて復讐戦が始まります。
シーア派、スンニ派、クルド、その他少数派民族、少数派キリスト教徒、ユダヤ教徒、イスラエル、パレスチナ、イラン、サウジ、トルコ、米国、ロシア、その他もろもろ、いろんな勢力が入り乱れて一気にカオス化します。
こんな地域では未来に希望が持てません。
米英仏のミサイル攻撃も、そういう観点で見れば大したことはやっていません。このミサイル攻撃に批判的な人たちも、シリアの安定にはプラスにならない、という点で批判しているのでしょう。
それはそれで理解できるのですが、ただ単にトランプが嫌いだからとか、支持を表明した安倍政権を批判したいからという理由で批判しているだけじゃないの?という心根が透けて見えるのが困ったところです。
違うのであれば、対案を出さないといけないでしょう。
一理あると納得できる意見としては、「いっそロシアとアサドに任せろ。そうすれば紛争は終わって死人は出なくなる」が一つ。
もう一つは、「米国と欧米は引くな、地上軍派遣してアサド政権を追い出して自由と民主制度の定着のために全力を尽くせ!」でしょう。
前者は人権を大事にするリベラルとしては失格です。何せ独裁者にシリア人の自由を売れという意見ですから。ただ、リアリスト的な意見としてはアリでしょう。アサド家に忠誠を誓って賛美すれば生命は保障される、死んだらおしまいだからそれでいいじゃないか、という考えも一理あります。
本当に人権を大事にするリベラルなら後者でしょうが、米国や欧米の国民が多額の税金を払って、身内意識をあまり持てないイスラム圏の中東の国に、そこまで肩入れできるとも思えない。どこかで無理が来ます。
リベラル的な理想としては正しくても、リアリスト的な現実論の前では実現不可能です。
結局対処療法的にならざる得ない。
国際法を守れという錦の御旗に従ってその都度行動。
あとは「どうか良くなってくれ」と祈るのみ。
その間にシリアに住む子供は学校にもいけず、難民となって別の国に逃げるか、アサド政権支持になるか反体制派になるか。もしくはイスラム過激派に入ってテロリストとしての道を歩むか。
本当に答えがない。
こういう悩みが理解できれば、短絡的に米国のミサイル攻撃はけしからん!と断罪もできません。
そんなこと言ったら「アサド家という独裁者一家が大人しく権力の座から退いて、人権蹂躙をやめ、投票に従ってリーダーを選べばいいんだよ」となる。
問題の構図は北朝鮮と似てますね。
私からしたら、紛争の根本的な原因は国民を弾圧する中東の独裁者にあるように思えます。
米国や欧米の責任に転嫁するのはやめた方がいいでしょう。
問題解決の第一歩は問題の把握です。
ロシア含め、米国などの大国はハッキリ言って巻き込まれているだけでしょう。
そもそも、同じイスラム教徒同士、殺し合いはやめようと武器を下せないのが問題なわけです。
隣の気に入らない相手をぶっ殺すために、外国の力を引き入れる。
日本は外国の力に対抗するために、天敵だった長州と薩摩が手を握りましたが、中東は逆です。
そんなことだからダメなんですよ。ダメな奴にはダメだとはっきり言ってあげることが優しさです。
トルコとイランとサウジが、「同じイスラム圏国家として連帯し、欧米やロシアの代理戦争の場にされることを防ごう!協力してイスラエルを追い出そう!」とはならない。
そんなことでは紛争は終わりません。
ミサイル攻撃=米国けしからん!と短絡的に批判する人々からこういう意見はでない。
「お可哀そうな」中東の人々と、他国で代理戦争する大国の欧米とロシアは悪者。
この手の二項対立でしかものを考えられないのは問題です。
在日差別や沖縄の基地問題、北朝鮮の問題も、こういう構図でしかものを見られない人が多い。というかそういう人たちがシリアへのミサイル攻撃へ反発してます。
そろそろ、あんたらのそういう思考回路のせいで問題が解決が遅れるんですよ、ということを自覚してほしいものです。