文在寅大統領 自叙伝『運命』から読み取れる、韓国進歩派の二重基準

文在寅大統領の自叙伝『運命 文在寅自伝』の日本語訳が10月頭に出版されています。

朴槿恵との大統領選挙前の出版なのでちょっと古いですが、非常に良い本です。

進歩派の建国神話がつづられています。

保守は保守で別の建国神話があります。

国民国家というのはだいたいその国ならではの建国神話があって、それが国民統合の土台となっているものです。

ある意味、韓国には二つの国家アイデンティティが並存しているような状態で、これが南南葛藤と言われる理念闘争を呼び起こしています。

 

北朝鮮の侵略から大韓民国を守り、「漢江の奇跡」と言われる経済発展を成し遂げたことも、その後の民主化運動も、どちらも韓国の誇るべき歴史としてお互いを称えあえば良いのに、右派も左派も自分の建国神話を守るためには相手を消滅させなければいけない!と思っているかのように激烈に闘争します。

北朝鮮がその南南葛藤を悪化させるべく、ひたすら工作を仕掛けてくるのでこれまたやっかい。

この南南葛藤が国内でとどまっていれば良いのですが、内部の政争が外部に波及して反日や反米へと飛び火したり、それの逆パターンである親北・親中へと国家政策が振り回されるのが困ったところです。

それはそれとして、この文大統領の自叙伝、軍事独裁と闘って民主化運動を称揚するのは分かりますが、北朝鮮の現実を直視しない姿勢は相変わらずです。

軍事独裁時代に気軽に市民をボコってたのは事実で、その結果学生が反発するのも当然。民主化運動と自由を求めるデモが頻発するのも当たり前です。

我が子が拷問されればそりゃ親は怒るし、我がことのように怒る市民が反政権デモを起こします。

そのために闘った人々を称えるのも基本良いことだと思いますが、当時の軍事独裁政権が市民をボコって取り締まる根拠としていた「共産主義」や「北韓」に対して、いまだに目が曇っているのは困りものです。

理解に苦しむのは二重基準を平気でやれるところ。

そんなに独裁が嫌いなくせに、世界最高レベルの独裁国家になぜ甘くなるのか?

文大統領は著書の中で、ベトナムでの米国の敗北を予想し、「運動圏の父」と言われた李泳禧氏が、中国の文化大革命を称賛したのは間違いだったと認めたことを褒めてます。

李泳禧先生はその後一九七六年の越南敗亡(ベトナム統一)のあとで『創作と批評』誌に、「ベトナム戦争」の連載最後となる第三部を載せた。つまり越南敗亡という世界史的事件の終結前に論文の一部と二部を、そして終結後に三部を書いたわけだ。それなのに、論理の展開や流れがあれほど首尾一貫した論文は見たことがない。一部と二部では、誰もが米国の勝利を信じて疑わなかった時期に米国の敗北と南ベトナムの敗亡を予告した。三部は予告が実現されたことを実際の状況と照らし合わせて検証し、総括する内容だった。文章の中とはいえ、真実が勝利することを確認して、読んでいた私も歓喜に包まれたことをはっきりと覚えている。

盧武鉱弁護士も李泳禧先生から多くの影響を受けた。盧弁護士が人権問題に身を投じるきっかけとなった「釜林事件」では、青年や学生たちが数十冊の基礎的な社会科旱書や、社会のありかたに批判的な書籍を教材に勉強会を開いたことが弾圧の口実となった。起訴状には「それらの本を読みながら北朝鮮または海外の共産系列の活動を称揚し鼓舞した」という部分がある。盧弁護士は弁論のために、数十冊の書籍をことごとく読破した。その中に李泳禧先生の『転換時代の論理』と『偶像と理性』があった。弁護士として弁論のために読んだ本から多くの影響を受けたのである。その後、盧弁護士はいっそう幅広い社会科学の書籍を読み込むようになり、それらの本によって、いわば「意識化」された。李泳禧先生の著作がその出発点だった。

のちに私たちが釜民協で活動した頃に、李泳禧先生を招いて講演会を二、三回開催したことがある。打ち上げの席で私は李泳禧先生に質問した。中国の文化大革命を高く評価したのは誤りではなかったかと。李泳禧先生はためらうことなく答えた。「誤りだった。文章を書くときは、客観性を保つために常に努力してきたが、あの頃はやはり資料の入手が困難で限界がめった。それに、あの頃私は精神主義に傾きすぎていたきらいがあった」。彼の正直さはまさに尊敬に値するものだった。

P102-103

「中国の文化大革命を高く評価したのは誤りではなかったか」と問い、「誤りだった。文章を書くときは、客観性を保つために常に努力してきたが、あの頃はやはり資料の入手が困難で限界がめった。それに、あの頃私は精神主義に傾きすぎていたきらいがあった」と答えた李泳禧氏。

それを「彼の正直さはまさに尊敬に値するもの」と称賛する文大統領。

この正直さをなぜ北朝鮮に発揮できないのか?

こういう二重基準が従北呼ばわりされる原因なわけですよ。

この李泳禧氏、ググってみたらこんな記事がヒットしました。

(次ページに続く)