保守界隈でコミンテルン陰謀論がもてはやされてますが、この手の話しは過去にもあったそうで、今は第三期目のブームが来たという感じらしいです。
その辺は秦郁彦先生の『陰謀史観 (新潮新書)』が詳しいです。
この手のブームを秦郁彦先生はこう評しています。
歴史学では大小の論争がつきものである。そして問題提起、推論、仮説が出つくす過程を経ておのずと通説や定説が固まってくるのだが、それにあえて異を唱える主張と論者は修正主義(revisionism)、修正主義者(revisionist)と呼ばれる。
新人が名を売る早道なので、アメリカには「修正主義者は事件の数ほどいる」と皮肉る声もある。
黒白がすぐはっきりするミクロの論点では、多くが正統派の手きびしい反証に遭って消えてしまうが、世界制覇を狙うコミンテルン(国際共産主義)、ユダヤ、フリーメーソン、ルーズベルト、昭和天皇などを主役に立てたマクロの陰謀説ともなると、水掛論になりがちだ。しかもスケールが大型になるほど、立証もできないかわり、決定的な反証も出しにくいから生き延びやすい。人気の消長はあるが、大型書店の一画にこの種の作品がずらりと並んでいる風景は珍しくない。
それぞれに熱烈な信奉者や追随者がいて独立王国を形成しているが、ふしぎなことに主役争いは稀で、なぜか平和的に共存している。たとえば第二次大戦をたくらんだのはユダヤ人かコミンテルンかをめぐって信奉者同士で争ったような例は見かけない。
『陰謀史観 (新潮新書)』P10
「新人が名を売る早道なので、アメリカには「修正主義者は事件の数ほどいる」と皮肉る声もある」というのは日本も同じでしょうね。
最近注目されている新人の保守系言論人なんかはその手の人が多い気がします。
まぁそれはそれ、これはこれです。コミンテルンの暗躍も一勢力として影響を与えていたわけですから、左派系の歴史家のようにほぼ無視するような態度だと歴史の解釈を見誤ります。
今、コミンテルンネタがもてはやされているのも、現在の国際情勢が過去に投影されているだけでしょう。
中国の脅威が増す過程で歴史の”重みづけ”が変わり歴史解釈”がコミンテルン叩きよりに傾いているだけ。
それ自体は悪いことではない、というかしょうがない。需要があれば誰かしら供給しますから。
個人的な記憶ですが、イラク戦争でアメリカの評判がえらく悪化していたときには、ユダヤ陰謀論系の本が書店にズラッと並んでいた気がします。
それを読むと「あ~、やっぱりアメリカは悪い奴なんだな」と中東で戦争しまくるアメリカに対する悪感情は正しいんだ、と自分を納得させることができます。
コミンテルン陰謀論系も一緒。中国けしからんという感情を納得させてくれる、気持ちの良い本が流行しているだけでしょう。
保守系言論人が「歴史の秘密が表に出てきた!」と猛プッシュしているのが元大統領ハーバード・フーバー著『裏切られた自由 上: フーバー大統領が語る第二次世界大戦の隠された歴史とその後遺症』と『裏切られた自由 上: フーバー大統領が語る第二次世界大戦の隠された歴史とその後遺症』の2冊。
一冊9500円!!
超高い。
ビビるわ。
しょうがないから図書館で借りました(笑)
借りたはいいが、超分厚い。
まるで辞書のようです。
おかげ様で誰も借りないのは、予約待ちなしで読めました。
戦後の歴史では矮小化されがちなソ連の暗躍が見えてくるので、歴史の新たな一視点として参考になる本であることは間違いないですね。
ただ、秦郁彦先生の『陰謀史観 (新潮新書)』にもありますが、”反”民主党の論客がこういう本を書いているという点は頭に入れて読んだ方が良さそうです。
つまりバイアスがかかっています。
だいたい野党というのは与党がやったことを全否定しがち。
ゆえに色んな理由を見つけてはソ連と組んだ民主党大統領のルーズベルトはけしからんという論理を組み立ててきます。
まぁそれはそれで全部が間違ってもないし、あの時ああしておけばというシミュレーションはより良い未来のためには大切です。
そういうより良い未来のための”たられば”本としては良書でしょう。
そうは言っても「う~ん、それはなんとも言えないな~」と思ったことは何か所かあります。
(次ページに続く)