以前の投稿でも触れましたが、米国の世界戦略がトランプ大統領のもと、大々的に再編される準備が進もうとしています。
多少強引でも中東から手を引き、欧州からも手を引き、米国の脅威となる国家には対象地域にいる地域国家を後方支援して脅威を抑え込む政策へと世界戦略の大転換が進みそうです。
これを「オフショアバランシング戦略」といいます。
この概念は何もトランプ大統領から始まったわけではなく、リアリスト学派の国際政治専門家が提唱し、戦略の変更を呼びかけ続けていたもので、オバマ時代の「アジアピボット」もこの大戦略の一環だと言えます。
そのオフショアバランシング戦略がいかなるものかがまとまっているのが『フォーリン・アフェアーズ・リポート2016年7月号』に掲載されている「アメリカはグローバルな軍事関与を控えよ――オフショアバランシングで米軍の撤退を」(ジョン・ミアシャイマー/シカゴ大学教授(政治学)、スティーブン・ウォルト/ハーバード大学ケネディスクール教授(国際政治)共著)です。
中東からの撤退に最後まで反対していたマティス国防長官辞任で本格的に進むであろうオフショアバランシング戦略への転換に向けて内容を紹介します。(フォーリン・アフェアーズを定期購読すればこちらで全文が読めます『アメリカはグローバルな軍事関与を控えよ ―― オフショアバランシングで米軍の撤退を』)
まず寄稿の前書きはこちら。
イラク、アフガニスタン戦争など、冷戦後のグローバルエンゲージメント戦略が米外交を破綻させたことが誰の目にも明らかである以上、いまやアメリカは「リベラルな覇権」戦略から、オフショアバランシング戦略へのシフトを試みるべきだろう。
オフショアバランシング戦略では、アメリカの血と財産を投入しても守る価値のある地域はヨーロッパ、北東アジア、そしてペルシャ湾岸地域に限定され、その戦略目的はこれらの地域で地域覇権国が出現するのを阻止することにある。
さらに、その試みの矢面にアメリカが立つのではなく、覇権国の出現を阻止することに大きなインセンティブをもつ地域諸国に防衛上の重責を担わせることを特徴とする。
ヨーロッパにも、ペルシャ湾岸地域にも潜在的覇権国が登場するとは考えにくく、米軍を駐留させ続ける合理性はない。一方、北東アジアについては、地域諸国の試みをうまく調整し、背後から支える必要がある。・・・・
まぁこの前書きでもすでに十分要約されています。
「アメリカの血と財産を投入しても守る価値のある地域はヨーロッパ、北東アジア、そしてペルシャ湾岸地域に限定」し、「戦略目的はこれらの地域で地域覇権国が出現するのを阻止」することであり、阻止するやり方も「矢面にアメリカが立つのではなく、覇権国の出現を阻止することに大きなインセンティブをもつ地域諸国に防衛上の重責を担わせる」のがオフショアバランシング戦略ということです。
この寄稿の章立てはこちらです。
- 「リベラルな覇権」からオフショアバランシングへ
- 北東アジア、ヨーロッパ、ペルシャ湾岸
- どのように機能するのか
- エンゲージメント戦略の悪夢
- 関与すべきか、関与を控えるべきか
- 民主国家同士は戦争をしない?
- 選択的エンゲージメント
- アジアには関与し、欧州と湾岸からは撤退を
- オフショアバランシングの利点
次ページから章立てごと内容を紹介しつつ、現状や今後の展望など私個人の考えも追記します。