アメリカ世界戦略の大転換 「リベラルな覇権」から「オフショアバランシング戦略」へ

アジアには関与し、欧州と湾岸からは撤退を

※2016年7月号の寄稿ですが、今でも十二分に通じる内容になっています。

  • 西半球におけるアメリカの覇権が深刻な脅威に直面するリスクはほとんどない。
  • ヨーロッパでもペルシャ湾岸でも潜在的覇権国は視野に入ってこない。
  • 一方、今後も中国が見事な成長を続ければ、アジアでの覇権を模索するようになる危険性が高い。
  • この場合、中国の覇権確立を阻止するための大がかりな努力が必要になる。
  • 中国封じ込めを地域国家に委ねるのが理想的だが、それだけではうまく機能しない。
  • 中国は近隣諸国よりもはるかにパワフルなだけでなく、地域諸国が地理的に点在しているために中国への対抗バランスに向けた連帯や同盟を組織するのは難しい。
  • 地域諸国の試みをうまく調整し、背後から支える必要がある。
  • 北東アジアに関する限り、アメリカは実際に「必要不可欠な国」かもしれない。
  • 一方ヨーロッパからは米軍を撤退させ、NATOはヨーロッパ諸国に委ねるべき。
  • この大陸で覇権を確立できる国が見当たらない以上、米軍をヨーロッパに駐留させる合理的な理由はない。
  • 覇権国になるポテンシャルをもつドイツとロシアは、人口が減少していくにつれて、そのパワーも低下していくし、他に覇権国となりそうな国は見当たらない。
  • 欧州安全保障をヨーロッパに委ねれば、問題が発生し、実際に紛争が起きるかもしれない。だとしても、死活的に重要なアメリカの利益が脅かされることはない。
  • ゆえに、ヨーロッパでの紛争阻止のために数十億ドルの資金をつぎ込む理由はない。
  • 湾岸地域では、ワシントンがイラク・イラン二重封じ込めを実施するまでは、オフショアバランシング戦略は非常にうまく機能していたわけで、この路線に立ち返るべき。
  • 現状では、いかなる地域パワーも中東で覇権を確立できる状況にはなく、ワシントンは中東諸国の視界の外側へと米軍を撤退させるべき。
  • イスラム国(ISIS)については、地域諸国にその対策を委ね、武器の提供、情報の共有、軍事訓練程度にその役割を抑えるべき。
  • イスラム国は現地諸国に深刻な脅威を作り出しているが、アメリカへの脅威はそれほど大きくない。
  • 長期的問題の解決には、現地諸国が優れた制度を確立するしかない。これをワシントンが提供することはできない。
  • シリアでは、アメリカはロシアに主導権をとらせるべき。
  • アサドの管理下でシリアが安定化しようと、競合する複数の地域へと分裂しようと、アメリカの利益が大きく脅かされることはない。
  • これまで民主・共和両党の大統領たちはアサド体制と協力してきた経験をもっており、シリアが分裂し、弱体化しても地域的なバランス・オブ・パワーが脅かされないことを理解している。
  • 内戦が続くとすれば、それは(アサド体制を支援している)モスクワの責任。ただし、ワシントンは政治的妥結に向けた外交については、前向きに関与すべき。
  • イランについては、現在の良好な関係を維持していくべき。
  • テヘランが核合意を放棄し、核開発路線に戻るとすれば、(アメリカとの関係が悪化し)米軍による攻撃を恐れるようになった場合のはずだ。したがって、関係の修復に努めるのは合理的だ。
  • 中国がより野心的になれば、湾岸での同盟国を求めるようになるだろうし、北京はおそらくイランを重視するはず。
  • 中国とイランの安全保障領域での協調は好ましくなく、そのためにもアメリカとイランの良好な関係を維持する必要がある。
  • アラブ諸国よりも大きな人口と経済的ポテンシャルをもっているイランは、最終的に湾岸地域を支配する環境を手に入れるかもしれない。
  • この方向へ流れが進めば、アメリカはイランへの対抗バランスを形成するために、リスクがどの程度なのかに配慮しつつ、アメリカの関与と軍事的プレゼンスを調節しなければならない。

 

イランとの関係改善が出来ていないだけで、それ以外は書かれている通りに事が推移しています。

ロシアとの関係悪化が続いていますが、シリアからは米軍撤退が進み、シリアをロシアに任せる方向に進んでいます。

ロシアへの制裁解除をして関係改善が進むとは考えづらいですが、少なくとも軍事的にはヨーロッパから手を引く方向で進むでしょう。

トランプの挑発発言によってEUの対米感情が悪化し、マクロンが欧州軍を創設しよう!なんて言い出しています。

それがうまくいくかは不透明ですが、米国からしたらどうぞどうぞという感じでしょう。

NATOの費用負担もガンガン文句を言って、そこまで文句を言われてまでいてほしいわけじゃない!とEU各国に思わせて、米軍撤退を成し遂げるでしょう。

そして、中国へ対抗勢力構築に力を注ぐ。

現状では経済戦争で、中国の体力を削ぎにかかっています。

今年はアジアシフト元年になりそうです。

だからと言って東アジアに米軍駐留が増えるわけではありません。

オフショアバランシング戦略とは、地域諸国に負担させて米軍は前線に立たない、という戦略です。

むしろ米軍の縮小・撤退が模索されるはずです。

もしそれを防ぎたいと思ったら、米軍を維持するための費用負担を大幅に増額し、「お金を出すからいてください!」と懇願するしかありません。

しかし、それも限界があります。結局は米軍は縮小され、その穴を埋めるために自国の国防費を増強する以外なくなります。

中国の脅威にさらされる周辺諸国からしたら辛い状況ですが、これはもうしょうがない。

中国が自由・人権・民主を大事にする素晴らしい国にでも生まれ変わってくれない限り、軍事力を増強して対抗するしかありません。

オフショアバランシング戦略への大転換によって米軍の撤退が進み、その結果周辺各国の覚悟が問われることになるでしょう。

中国に対抗するのか、中国の手先になるのか?

その二択です。

もう一点触れておくと、上述の寄稿通りにことが進んでいないのはイランとロシアです。そこがリスクかもしれません。

イランとの関係悪化はもはや決定的ですから、イラク・イランの勢力均衡ではなく、イスラエルやサウジも含めたややこしい勢力均衡を中東で模索することになりそうです。

ポンペオ国務長官が8~15日の日程でエジプトやサウジアラビアなど中東8カ国を歴訪する予定ですが、そこでGCC(湾岸協力会議)諸国の結束を呼びかけ、イスラム国やイランへの対抗勢力として勢力均衡を目指すことでしょう。

今後米軍がシリアから撤退し、アフガニスタンとイラクからも完全に撤退したら、例え撤退後に大混乱が起きても二度と米軍が介入することはなさそうです。

せいぜい空爆するくらいでしょうか。

中東がどれだけ混乱しても米国は大して困りません。

エネルギーは自給できてますし、難民が押し寄せることもない。

例え大混乱しても、エネルギー価格が高騰し、難民が押し寄せて困るEU各国にやらせるでしょう。

仮に大混乱してイランが地域覇権を握りそうになったとしても、その危険性が分かった時点で介入しても十分間に合う、というのがオフショアバランシング戦略の考え方です。

ロシアとも今のところ、中国とまとめて潰す方向で進んでいます。

もしこの流れが変わるとしたら、米中新冷戦が中国有利に傾いたときでしょう。

ソ連との冷戦期に、米国が中国と国交正常化したときのように、驚きの米露関係改善が起きると思います。

ただし、現状では中露まとめて相手にできる余裕があるので、当分ロシアへの圧迫は継続しそうえす。

プーチンが急死して、親欧米派のロシア大統領が誕生でもしない限り、ロシアへの経済制裁は継続されると思います。

とにかく今後は「地域紛争には不介入の立場を貫くべし!」、これが今後の米国のスタンスになりそうです。

(次ページに続く)

オフショアバランシングの利点

  • オフショアバランシング戦略をとれば、アメリカの国防支出を大幅に削減できる。
  • アジアにおける米軍の軍事プレゼンスは維持する必要があるが、ヨーロッパ、ペルシャ湾岸からの米軍撤退によって、対テロ支出、アフガニスタン紛争のその他の外国への軍事介入を終わらせ、数十億ドル規模の資金を節約できる。
  • それでも、アメリカはかなりの規模の海軍力と空軍力、穏当なレベルながらも能力の高い地上軍を維持していける。
  • しかも、アメリカ政府がより多くの資金を国内の必要性に投入するか、減税措置をとることもできる。
  • オフショアバランシングは、アメリカの中核価値への自信、その永続的な優位への認識を前提にする大戦略で、アメリカの地理的優位を利用し、大きなパワーをもつか、過度に野心的な地域大国を牽制しようとする現地諸国のインセンティブをうまく利用する戦略。
  • ナショナリズムの力を尊重し、外国社会にアメリカの価値を強要することはせず、他国が取り入れたいと望む模範を示すことを重視すべし。
  • オフショアバランシングは、アメリカの利益にもっとも重なり合う部分が多いだけでなく、アメリカ市民の現在の考えにもうまくフィットする戦略。

 

ポイントは「コストを大幅に節約できる」「ナショナリズムの力を尊重し、多国に米国の価値観を強要するのはやめる」「他国が見習いたいと思えるよう模範を示すことを重視すべし」「アメリカの利益とアメリカ市民の考え方にもっとフィットする」、それがオフショアバランシング戦略だ、ということです。

トランプがたびたび外国への米軍駐留コストを問題視していますが、その土台にはこのオフショアバランシング戦略があります。

メディアは「トランプは考えなしに安全保守や同盟国との信頼を金の問題に矮小化している」と批判的に報じていますが、案外トランプ大統領の方向性はオフショアバランシング戦略への転換という観点からは正しかったりします。

そんなのヤダ!困る!と駄々をこねても仕方ありません。

中東や欧州から手を引いて中国の台頭を本気で抑えてくれるなら日本にとってもメリットはあります。

大事なのはこの大戦略の転換を理解して、日本のポジションを有利な位置へともっていくことです。

そのためにもこのオフショアバランシング戦略を理解することが大事でしょう。

以上が『フォーリン・アフェアーズ・リポート2016年7月号』に掲載された内容です。

最後にこのオフショアバランシング戦略への転換によって、今後東アジアで起きることを予想してみたいと思います。

(次ページに続く)